ザ・ビーチ・ボーイズ 『スティル・クルージン』


スティル・クルージン

1989年8月28日発売。
「ココモ」が収録されていることで知られているアルバム。
この曲はトム・クルーズ主演の『カクテル』(1988年7月29日公開)の主題歌として使われ、
1988年7月18日シングルとして発売された同曲は、評判となり、
1966年の『グッド・バイブレーション』以来、
実に22年ぶりの全米シングルチャート1位を獲得。大ヒットを記録した。
なおブライアン・ウィルソンは
バンド内の人間関係のため、この曲に参加していない。
しかしここまで
トロピカルな魅力を備えている曲調はありそうで、なかった。
結果的にブライアン・ウィルソン至上主義のビーチボーイズファンにも
受け入れられることとなった。

この大ヒット曲の勢いに乗って、
急遽ビーチボーイズはアルバムを作ることとなった。
このアルバムを制作するにあたって、
作曲陣は3つのグループに分かれている。
ひとつマイク・ラブとテリー・メルチャーの二人を中心に曲によって
ブルース・ジョンストン、スコット・マッケンジー、ジョン・フィリップスが加わるグループ。
なおマイク・ラブはこのアルバムで
テリー・メルチャーとさらに進んでタッグを組み、
二人中心で
ビーチボーイズ『サマー・イン・パラダイス』(1992年6月1日)を作ることになる。
そしてアル・ジャーディンのグループ、ブライアン・ウィルソンのグループである。

この3つのグループ、
後に
マイク・ラブ陣営がビーチボーイズ、
アル・ジャーディン陣営がビーチボーイズ・ファミリー&フレンズ、
(後にブラザーレコードから訴訟を受けて、ファミリー&フレンズと改名)
ブライアン・ウィルソンがブライアン・バンド
とそれぞれ別々に分かれて本格的に活動することになるけれど、
今後現在まで至る、実質空中分解のきざしをこの時点で、見せている。

そういう「ココモ」ありきで語られれても、
ハイライトとなる曲は4.「イン・マイ・カー」ではないだろうかと僕は思っている。
ブライアン・ウィルソンの提供曲で
彼は前年にソロ・アルバム『ブライアン・ウィルソン』を発表し、
ソロ活動を本格化していた。
曲は『ブライアン・ウィルソン』の延長上にある曲で、
そのアルバムに収録していてもサウンド的に違和感がない。
ビーチボーイズの音楽の核を作った人物が、
このアルバムでは最もビーチボーイズらしくない曲、
ここではそんな世界観を作っているということが面白い。
まるで本当はもうビーチボーイズから離れているということを示しているようだ。
アルバムでもっとも好きな曲であるけれど、
ボーカルの担当の仕方がおかしくない?
Aメロ、Bメロ、Cメロがブライアン・ウィルソン、サビがカール・ウィルソンがボーカル担当している。
担当を逆にするか、どちらかに統一した方がもっと曲として良くなったと思うだけに少し残念。

「ココモ」、「イン・マイ・カー」の2曲以外にも
1.「スティル・クルージン」、2.「サムホエア・ニア・ジャパン 」、7.「メイク・イット・ビッグ 」
アル・ジャーディンが作曲した3.「アイランド・ガール」 もポップスとしての出来は悪くない。

ただ6.「ワイプ・アウト」はR&Bテイストで流石に無茶をしていて印象が否めずアルバムに浮いている。
またアルバム収録曲最後の3曲は60年代のヒット曲の音源をそのまま音源。
(と思いきや、9.「素敵じゃないか」 の後半のマイク・ラブが歌うボーカル・テイクだけ
オリジナルのテイクと違う。マニアは必聴。)
そういったツメの甘さとツッコミどころがある。

グループとしてのまとまりが欠ける、ツッコミをせざる得ない曲がある、昔のヒットソングを流用
といった要因でコンピレーション・アルバムの要素があって
ファンの間では「ココモ」ありきで
そこにしか魅力がないかのように語られるアルバムとなってしまった。
けれど僕の中では、これはこれであり、アルバムとして全体的に悪くないと思っている。
「ココモ」以外に聴きどころはある。
少なくても僕は「ココモ」目当てでこのアルバムを聴くことはない。

1.スティル・クルージン – Still Cruisin’
2.サムホエア・ニア・ジャパン – Somewhere Near Japan
3.アイランド・ガール – Island Girl
4.イン・マイ・カー – In My Car
5.ココモ – Kokomo
6.ワイプ・アウト – Wipe Out
7.メイク・イット・ビッグ – Make It Big
8.アイ・ゲット・アラウンド – I Get Around
9.素敵じゃないか – Wouldn’t It Be Nice
10.カリフォルニア・ガールズ – California Girls

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