尾崎豊 『放熱への証』


放熱への証

1992年5月10日発売。
尾崎豊6枚目のアルバムである。

このアルバム発売直前の1992年4月25日に尾崎豊は亡くなった。
享年26歳。
『尾崎豊―Say good‐by to the sky way』によると
アルバムは少なくてもミックスは完成させていることが分かる。
発売の時間から考えると、最後の工程マスタリングも終わらせて、
アルバムの中身は完成させ、CD生産中に亡くなったのだと思われる。
少なくても本人が亡くなったから、
急遽発売したアンソロジーのような作品ではない。
尾崎豊はこの作品を完成させて亡くなっている。

このアルバムのレコーディングが途中に
それまで尾崎豊は様々な支えていたスタッフとも
人間的トラブルを起こしていた。
5枚目のアルバム『誕生』(1990年11月15日)で、
久しぶりに一緒に仕事をした須藤晃とも袂を分かち、
今作では尾崎豊自身でディレクターを兼ねている。
さらにジャケットで一貫して担当していた田島照久とも、
急なジャケットを修正との無茶な要望で袂を分かっている。
この直後に尾崎豊は亡くなるから、
田島照久は
結果的に尾崎豊のキャリアすべての主要なアートディレクションを
とったことになったわけだけれど、
重要なブレーンが抜けてしまったまま、
音楽活動を続けなければならないという、未来として先が見えない状態であった。

アルバムの内容そのものは全体として
精彩の欠いているアルバムだと思う。
尾崎豊のスタジオ・アルバムは全部で6作あるけれど、
個人的には尾崎豊作品の唯一の凡作だと思っている。

十字を模したジャケット、
あえて好意的に読めば
リスクやタブーを怖れない尾崎豊らしさが出ていると見えるけれど
アルバムの内容は
僕としては魅力を見出だすのは難しい。

尾崎豊は若くして亡くなっている、
そうしたことが残念ながら人気の大きな要因になっている。
そういう意味でも「もし」は尾崎豊の物語ではありえないのだけれど、
僕はこのアルバムからは明るい未来を見出すのは難しい、
僕には音楽活動が低迷する兆ししか見えてこない。
だけど尾崎豊の音楽活動は
そうした曲がり角を曲がらないまま終わってしまった。

全曲作詞・作曲:尾崎豊

1.汚れた絆★★★
ブルース・スプリングティーンの影響を
受けたと感じられるメロディで
疾走感を感じさせる曲。
それでも初期の曲例えば
「17歳の地図」「Scrambling Rock’n’Roll」とは響きが違うのは
時がたったということなのだろう。
昔ながら仲を「汚れた絆」と表現したことも
尾崎豊自身が齢をとったということを感じさせる。

2.自由への扉★★
イントロなしで始まるポップなメロディ。
尾崎豊の開放感ある明るさを感じるのだけれど、
楽曲としては上手くいっていない。
歌唱の面に関して言及すると
僕には低い声の抑揚のなさは目につく。
例えば同じ低い声で歌う「・ISM」(『街路樹』(1988年9月1日))に収録されたものは、
ダークさを演出する意味で表現として味になっていた。
けれどこの曲にはそういう部分はない。
サビで音程が悪い意味で外れているところもあって、
ボーカル部分は個人的には尾崎豊の中でワーストだと思う。
低いメロディの部分のキーを変える、
歌い方を工夫して上手く歌うといったやり方は
それなりにあったと思うけれど、
尾崎豊はそうした対処ができていない。
歌詞で登場する「自由」も抽象的すぎて、説得力がない。
楽曲としての素材が良かっただけに、もったいないと思う。

3.Get it down★★☆
歌詞はロックスターとしての自分を示すための表現だろうか。
尾崎豊作品のアレンジとしてあまり評価が良いと思っていないけれど、
このアレンジ幸か不幸か、いい意味で無難さが功を制している。
ある意味、ライブ映えのする曲だったのかもしれない。
ライブで演奏するところを見たかった。

4.優しい陽射し★★★☆
バラード。
「暮らしを彩れば 答えは育むものだと気付く」というフレーズに
最後まで周囲にトラブルを起こしていた
尾崎豊のかすかに成熟した部分が感じられる。

5.贖罪★★

6.ふたつの心★★★☆
歌詞の内容はかつて一緒に暮らしていた人と
もう一度寄りを戻すことを呼びかける内容。
この唄を歌っていた時、
プライベートでは尾崎豊はそういう状況であった。

7.原色の孤独★★

8.太陽の瞳★★
「太陽の瞳」と変わるまでは
「僕の知らない僕」という仮のタイトルであった。
『NOTES: 僕を知らない僕 1981-1992』
で創作ノートの最後として載っている。
91年12月19日までは「僕の知らない僕」であった。
尾崎豊は最後の最後まで自分探しでもがいていたことが
伺える。
そのことを踏まえて知ると、
初めて何かを考えさせる曲になりえる。
けれどそういったことを知らずに聴くと
感情を出さない歌い方とムード感の無難なアレンジで
エッジ、心に角を感じさせない作りとなっている。
歌い方、アレンジに感情的な仕掛けが欲しかった。

9.Monday morning★★
10.闇の告白★★☆
「ふたつの心」から後はある意味緩慢な曲が続いていて、
僕はこの曲の良さを
トリビュート・アルバム『”BLUE” A TRIBUTE TO YUTAKA OZAKI』(2004年3月24日)
に収録している斎藤和義がカヴァーする
バージョンで初めて気づいた。
主にアレンジを修正すれば、
評価が大きく変わっている可能性があったと思う。

11.Mama, say good-bye★★
尾崎豊の母親はこのアルバム制作直前に亡くなっている。
この曲は尾崎豊の母親への捧げる唄、レクイエムとなっている。
けれど、そうした事情を知らないで
聴かなければならない音楽となっている。

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