小沢健二 『Eclectic』


Eclectic

2002年2月27日発売。
1998年1月にシングル『春にして君を想う』発売以降、
小沢健二は音楽活動を表から出さなくなる。
このアルバムを発売する間に
1999年にマーヴィン・ゲイのトリビュートアルバム『Marvin is 60』に
1曲参加(「Got To Give It Up」)したのみであるから、
今ではある意味当たり前のように受け入れている小沢健二のブランクを
多くのファンは初めて目の当たりにした中での発売だから
このアルバムは相当期待値が高かったはずだと思われる。

録音は海外(アメリカのニューヨークとマイアミ)で録音された。
ジャケットは1ページのなかに歌詞があり、
まるで仕方なく歌詞を載せたくらいの扱いである。
「2001年9月11日以降の情勢を深く鑑み、制作内容に対しても配慮しました。」
とジャケットクレジットに書いているが、
これが何を意味しているのか僕にははっきりと分からない。

内容は
小沢健二自身がプログラムした打ち込みのドラムに、
フィンガーベースの絡みが特徴的であり、R&B色が大変強い。
コーラスは外国人が担当したからか、
日本語の部分が日本語でなく何かの記号のように発音されている。

また小沢健二自身のボーカルも
このアルバムを特徴づけられていて
全編ウィスパーボイスのスタイルで歌っている。
今にして見れば、小沢健二はアルバムごとに
サウンドだけでなく歌唱も変えているのだが
このアルバムでは顕著に聴いて、多くの人が
特にこの歌唱にこれまでのスタイルとの隔たりを感じたと思う。
また12曲中3曲が性質的にリプライズに近い曲で
小沢健二のアルバム構成の特徴である、
アルバムにリプライズを多用するという手法は
この作品にも使われる。

全作詞・作曲・編曲:小沢健二
except「今夜はブギーバック」
originally written by K.ozawa,M.koshima,Y.matsumoto and S.matsumoto in 1994

01.ギターを弾く女★★★
メロディとメロディとのフレーズ間合いが長く、
歌ものとしてこのアルバムのサウンドでないと成立しにくい曲であり、
このアルバムを作るために作った曲ということを実感させられる。
1曲目にこの曲をもってきたのは、
今までの小沢健二とは違うことを分かりやすく示したかったからかもしれない。
打ち込みのドラムもここでは効果的。

02.愛について★★★
この歌に「遠くまで行く1000灯機ように」という歌詞の一節がある。
1000灯機という言葉はおそらくもなにも戦闘機という文字を変えたものだろう。
歌詞カードを見るまでは戦闘機だと思っていた。
前述の「~配慮しました。」という部分は
もしかしたらここにあたるのか、と曲を聴いて僕は感じた。
アウトロの
16小節に一度刻まれるエフェクトの強いスネアが
細かく作られていることを実感できる。

03.麝香★★★★☆
あえて曲調を比べると『犬が吠えるがキャラバンは進む』の「天気読み」
に似ていいるがかそれから比べる恐ろしく洗練されている。
『犬が吠えるがキャラバンは進む』や『Life』の頃から
遠い場所まで来てしまった。
でもドラムは『小沢健二作品集「我ら、時」』のような少し重たいスネアの音色にしてほしかった。

04.あらし★★★★
イントロから部屋の外で嵐が吹き荒れている眺めている
情景が浮かぶ。
「あなた」といることで感じる「遠い嵐」と重なり歌の奥行きを与えている。

05.1つの魔法(終わりのない愛しさを与え)★★★★★
イントロが聴いてよかったと思わせる。
祈りのように、しかし重々しさはない美しさを感じさせる。

06.∞(infinity)★★★★
女性コーラスを全編的に取り入れている曲。
女性コーラスのカタコトがこのアルバムの質感を生んでいる。

07.欲望★★★
歌詞は女性との一線を越えようか駆け引きしているという内容。
洗練された描写とサウンドで上品さを引き出している。

08.今夜はブギーバック/あの大きな心★★★★☆
「今夜はブギーバック」のセルフカバーと「あの大きな心」のメドレーとなっているが、
聴いている印象からは1曲として感じ、
「今夜はブギーバック」のリメイクといった趣がある。
スチャダラパーのラップ部分はカットされ、
そのかわりに「あの大きな心」だと思われる部分を追加。

また「今夜はブギーバック」のパートの歌詞が全体的に変更されている。
そのことについて少し長めに解説する。

始めの原曲の歌詞では
「僕とベイビー・ブラザー めかしこんで来たパーティータイム
すぐに目が合えば 君は最高のファンキーガール」

セルフカバーでは
「僕と友達が めかしこんで行ったパーティーで
すぐに眼が逢えば 君を最高と感じた」

と内容は出来る限り原曲のままで、言い回しのみを変えている。

また原曲の始めのサビ最後のフレーズで
「甘い甘いミルク&ハニー」を「甘い甘い蜜の味」となって歌っている。
このアルバムは英語(横文字箇所)が日本語に代わり
可能な限り英語(Jpopで英語に期待されている横文字)を避けている(減らしている)ことを
心がけていると考えられる。

一般的なR&B色が強いJpopの場合、かなりの高確率で英語フレーズの歌詞が登場するが、
僕にはこの曲が、そうした英語を使うことへの軽薄さに
対抗しているのではないかと思う時がある、深読みすぎか。
この傾向は「ひふみよ 小沢健二 コンサートツアー 二零一零年」
(ライブアルバム『小沢健二作品集「我ら、時」』)でさらに進む。

サビの歌詞が書き変わっているフレーズが最後に出てくる。
「クールな僕らが 話をしたのは偶然じゃありえないだから
ブギーバック それは神様がくれた 甘い甘いmilk&honey」
このサビのフレーズが登場することで原曲に合ったいかがわしい妖艶さがなくなり、
生真面目さを感じるようになる。
総じて歌詞だけでも軽薄さをなくし、上品さと年齢を上げた表現となっている。

09.bassline★★★
「愛について」を基本としてベース部分を強調している。
リプライズに近い。
ここで一区切り、あるいはアルバムが佳境に入っていることを感じさせる。

10.風と光があなたに恵むように★★★
「1つの魔法(終わりのない愛しさを与え)」のインストを基本としている。

11.甘い旋律★★★★
それまでフィンガベースの生演奏だったこのアルバムでシンセベース大々的に登場。
アコースティックギターとエレキギターの音色の使い分けも聴きごたえがある。

12.踊る月夜の前に★★★
「麝香」を基本としている。
「bassline」と同じようにリプライズに近い。
包まれるような女性コーラスのなかでサビのフレーズを歌う。
「麝香」、そしてこのアルバムの美しさを
可能な限り引き出して終わらそうとする。
確かに余韻を残らせることに成功している。

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