小沢健二 『LIFE』


LIFE

1994年8月31日発売。
小沢健二の2ndアルバムであり、また代表作で
小沢健二といえば『LIFE』となるぐらいイメージが決定づけられたアルバム。

この後、ファンや小沢健二自身さえも
このアルバムの影や幻影のようなものから逃れなくなるのだが
それはそれ。

小沢健二は渋谷系としてカテゴライズされることがある。
ただ他の渋谷系のミュージシャンと比べると、彼の音楽(特にこのアルバム)は
王道のJ-pop、邦楽のロックに寄っている。
彼がかつて所属していたフリッパーズ・ギターや
もう片方のメンバーであったコーネリアスこと
小山田圭吾の文脈から音楽性と関係ないところで
カテゴライズされているようにも見える。
ただこのアルバムに随所に顕著な過去の洋楽からあからさまに引用しているあたり、
「正しい渋谷系」のあり方をしているとも見える。

それにしても何一つ肯定して見せる表現は見事。
ポップスが明かりを照らし、肯定する作業だとしたら、
このアルバムは最も純度の高いポップスである。

全曲作詞・作曲:小沢健二
except6.作詞・作曲:小沢健二・光嶋誠・松本真介・松本洋介

1.愛し愛されて生きるのさ LOVE IS WHAT WE NEED★★★
高揚感を盛り立てる生楽器中心で行われるループの強いアレンジ、
そのことが90年代以降の音楽だと感じさせる。
水たまりを踏むようなイメージをさせるオルガン
その繊細さを感じさせるための骨太なリズム。
その両立させているサウンドが心地よく存在している。

2.ラブリー LOVELY★★★★
このアルバムのテーマのようなポップな曲。
イントロや曲調は
ベティ・ライトの「Clean Up Woman」と酷似していることは有名。
ジャクソン 5「I Will Find a Way」と
「ドアをノックするのは誰だ?(ボーイズ・ライフ pt.1:クリスマス・ストーリー)」との
比較もそうなのだけれど、
確かに他のポップスからの引用度の高いアルバムだとは思う。
小沢健二のアルバムの中でも最も引用度は高いのだろう。
嫌な見方をすれば、
だからとてもポップなアルバムなんだと、
見る事も出来ないわけではない。
けれど例えば「Clean Up Woman」を聴いて
「ラブリー」が生まれかどうかは
決定的に違うことだと僕は思う。
純度の高いポップスから
また違った純度の高いポップスが生まれた。
僕はそのことは素晴らしいと思うし祝福したい。

3.東京恋愛専科・または恋は言ってみりゃボディー・ブロー LOVE IS LIKE A BODY BLOW★★★
サンバがリズムのブラスを多くフューチャーした曲。

4.いちょう並木のセレナーデ STARDUST RENDEVOUS★★★☆
弾き語りを軸にしたようなセレナーデ、バラードである。
けれど、僕が聴いている限り、
ギターが4種類登場し、エレピで色どりを採り、
手拍子でリズムを補うといった巧妙さを感じさせる。

この曲はライブ音源のようだけれど、
ボーカルの音の解像度が高いことから見て、
おそらくレコーディング前提のライブだったと思われる。
『刹那』(2003年12月27日発売、同曲の1995年に行われた
ツアー『KENJI OZAWA NATIONAL TOUR ’95「VILLAGE」』
における日本武道館でのライヴ音源を収録されている)
の音源よりもボーカルを中心に音質が良い。
スタジオライブであると思われる。

5.ドアをノックするのは誰だ?(ボーイズ・ライフ pt.1:クリスマス・ストーリー) WHO’S GONNA KNOCK THE DOOR?(BOY’S LIFE pt.1:A CHRISTMAS STORY)★★★★★
決して声の出来切れていないサビの早口のフレーズや小沢健二
具体的な東京の地名がタイトルでなく、
原宿がさりげなく出ているところが洗練さを感じる。
なにげなく庭のように当たり前のように行っています、というニュアンスで出てくる。
ポップスとはこういうもんですといわれたら、納得せざるを得ない強烈な曲。

6.今夜はブギー・バック(nice vocal) BOOGIE BACK (nice vocal)★★★★☆
スチャダラパーとのコラボ曲。
1994年3月9日にシングルとして発売。
なおスチャダラパーのラップが中心としてある
『今夜はブギー・バック (smooth rap)』が
同日に発売されている。

後に『Eclectic』(2002年2月27日発売)において、
自身(そのときはスチャダラパーなし)でセルフカヴァーをしている。
そのときは、このアルバムにある退廃的な曲調はなくなって、
やや生真面目さを感じる仕上がりになっている。
このアルバムに収録されている
ストリート感覚十分のR&Bのその退廃的な曲調が魅力となっている。

『今夜はブギー・バック (smooth rap)』では
このバージョンにない
スチャダラパーがより速いラップを披露している。
つまりここではラップの速い部分を削り、遅い部分を残している。
僕には誰でもカラオケで歌えるように工夫されたように思える。
スチャダラパーのこの曲における遅いラップも
ヒットの要因のひとつではないだろうか。

7.ぼくらが旅に出る理由 LETTERS,LIGHTS,TRAVELS ON THE STREETS★★★
東京タワーが見た風景から旅をする。
イントロがポール・サイモンの某曲に似ているだけに、
この後に登場するライブバージョンはこのイントロを巧みに避けている。
ストリングがそれなり強く使われている。
次とそのまた次の曲と親和性が高いと思われる。
そういう意味ではこの曲が、ここに置かれる必然性はあったのだと思われる。
仮にこの曲と「ラブリー」を曲順を入れ替えたらと考えると
統一するためには必要な曲順であった。

8.おやすみなさい、仔猫ちゃん! GOOD NIGHT, GIRL!★★★
メルヘン一歩手前ファンタジー要素の強い楽曲。
聴いた人を幸福さを感じさせる楽曲で
アルバムを終わらせたかったのだろう。
歌詞はファンタジー要素を感じさせつつも、
あくまで現実的な視点であるところが歌詞の力強さを与えている。

曲の冒頭に13秒の空白がある。
この空白の間が物語が終わり暗転する映画のエンドロールを感じさせる。
アルバムも、もう終わるという演出の意図があったと思われる。
そしておそらく後述するリプライズのために、
この位置にこの曲が置かれたと考えられる。
次の曲のオルゴールにあった曲調である。

9.いちょう並木のセレナーデ(reprise) AND ON WE GO★★
わずか52秒のオルゴールによる
「いちょう並木のセレナーデ」のインストルメンタル。

小沢健二がアルバムを構成させるために使う、リプライズで、
この手法は『球体を奏でる音楽』『ecletic』『刹那』にも使われて
アルバムの終わりはアルバム収録曲から、リフレインとして使われる、
こうしたリプライズの手法はこのアルバムから始まっている。
そうした手法の始まりのきっかけは
このアルバムに極限まで自身の出来る水準の高い曲を並べるための、
苦肉の策から来たのだろうか。

ただこのアルバムに関してはそうした手法があまり効果的ではない。
それは個々の曲の水準の高かったことも要因のひとつと考えられる。
そういう意味では、
そうしたアルバムを埋めるための工夫がやや空回りしていることが、面白い。

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