小沢健二 『刹那』


刹那

2003年12月27日発売。
アルバム未収録集、しかしただそれだけでは語れないことがある。

収録曲はすべてアルバム未収録曲で構成されているのだけれど、
このアルバムでアルバム未収録曲を
すべて網羅出来るわけではなく、
むしろまだこのアルバムに収録されていない曲が多くある。

まず1997年、1998年のシングルは一切収録されていない。
この時期のシングルは個人的には大変興味があるのだけれど、
残念ながら未収録のままで
現在それらのシングルは中古でプレミアがついている。
「カローラIIにのって」「戦場のボーイズ・ライフ」
といった1995年の代表曲も未収録になっている。
これらの未収録は何を意味しているのか、
僕にははっきりと分からない。

アルバム収録曲の内容は
他の小沢健二のアルバムと比べると
もっとも『Life』(1994年)が質感的に近い。
確かに収録曲の多くが『Life』発売後に発表された
1995年のシングルから収録されたから(9曲中7曲)
作風の近さを感じることはできる。
ただ『Life』と比べて聴くと、
サウンドに変遷があり違いが見ることが出来る。

特質するべき部分は『Life』になかった打ち込みによるドラムの導入である。
『Life』のドラムはすべて青木達之による演奏だった。
それに対して『刹那』に収録されている曲は
青木達之と小沢健二による打ち込みドラムの併用、
または打ち込みドラム(3)(4)のみとなっている曲がある。
この小沢健二による打ち込みは
2002年に発売される4thアルバム『Eclectic』
に引き継がれ、
実は1995年から『Eclectic』のサウンドに対する備え
は始まっていたと考えることが出来ると思う。

アルバムを通して聴くと、ただの寄せ集めでなく単独作品として聴くことが出来、
またアルバムを聴き始めてから聴き終えるまでの時間を短く感じる。
そういった意味でまさに「刹那」なのだけど、
確かにタイトルといい収録の仕方といい
小沢健二の何か意思が感じられることは確か。

アルバム未収録の作品から
(いろんな事情により無理やり)もう一枚アルバムを作ることになりました。
ただオリジナルアルバムのように聴くことが出来ると思います。
僕にはそんなメッセージだと受け取っている。

作詞・作曲・編曲:小沢健二
except 5,6 作詞 :小沢健二 作曲:筒美京平

1.流星ビバップ★★★★★
音はエレピとタンバリンのみを演奏中心にしたサウンド、
このシンプルさが身近なポップさを演出している。

2.痛快ウキウキ通り★★★★☆
メロディーはこの時期の小沢健二の中でもキャッチーで
また打ち込みのドラムも『Life』にない質感で
サビの歌唱も『Life』以上に「王子」をイメージする。

3.さよならなんて云えないよ(美しさ)★★★★★
歌詞の世界観、サウンド、メロディーが「美しさ」を表現している。
それでいてとてつもなくポップであることがこの曲の魅力。
小沢健二による打ち込みのドラムが『Life』にないポップスさを感じさせる。

イントロのリフはマイケル・ジャクソン「black and white」に
似ているとよくいわれる。
小沢健二自身もあるテレビ番組のイントロクイズで出演した際、
「さよならなんて云えないよ(美しさ)」のイントロを聴いて
「black and white」と答えたらしい(筆者未確認)が、
小沢健二のポップスに対する、また自身の創作に対する姿勢と受け取れて
僕は面白い話だと思う。

4.夢が夢なら★★★☆
『球体の奏でる音楽』の
渋谷毅(ピアノ)、川端民生(ベース)が参加している。
ここもドラムに相当するリズムは
小沢健二による打ち込みを使っている。
アコースティックと
打ち込みのドラムのコンビネーションが
サウンドを特徴づけている。

5.強い気持ち・強い愛★★★★★
筒美京平とコラボ曲。
しかしそういわれないと
気づかないくらい小沢健二の世界となっている。

6.それはちょっと★★★★
この曲も筒美京平とのコラボ曲。
恋人からの結婚をひたすら拒む曲、
結婚を拒む軽やかな人を
軽やかで、ありきたりでなくうまくオシャレな歌詞で表現できている。
歌の結婚式なきらびやかさをサウンドでも表現している。
いかにも王子らしさを出した曲だ。

7.夜と日時計★★★★
もともとは渡辺満里奈に提供した曲。
1993年にセルフカバーした。

僕自身、大学時代ギター部分を
コピーして弾き語りしたことがあるのだが、
かなり苦労した記憶がある。
コピーするだけでも大変だと僕にとって思っているから、
自在に使いこなしている
小沢健二のギターの技量は当時から
確かな演奏力を持っていたことが分かる。
(とまあ、比べる自体おかしいのだが)

8.いちょう並木のセレナーデ★★★
もともと『Life』に収録されていた曲で、
ここでは1995年に行われた
ツアー『KENJI OZAWA NATIONAL TOUR ’95「VILLAGE」』
における日本武道館でのライヴ音源。
『Life』に収録されている音源も
ライブ音源(かもしれない)で
あるが、こちらの方がライブ感は強い。
『Life』の時はハーモニカ音源であったのに対し、
ここでは口笛になっている。

アルバム未収録のライブ音源は他に
「ドアをノックするのは誰だ?」、「ぼくらが旅に出る理由」、「流星ビバップ」
がある。『刹那』ではこの曲のみライブ音源で選ばれた。

9.流星ビバップ★★
流星ビバップのインストルメンタル、
もともとシングル『痛快ウキウキ通り』のカップリングとして収録されていたが、
ここではアルバムのリプライズとして登場(活用)されている。
小沢健二はアルバムを構成するとき統一感を出すため、リプライズを多用するのだが
このアルバムでもリプライズを使い、寄せ集め感をなくそうとしている。

僕はこのアルバムを『Life』以上に「王子」を体現していると思う。
それはほんの一瞬の時期、「刹那」にふさわしいかもしれない。

コメント

タイトルとURLをコピーしました