大沢誉志幸 『まずいベルが鳴る』


まずいリズムでベルが鳴る [ 大沢誉志幸 ]

1983年6月22日発売。
大沢誉志幸のデビューアルバムである。
大沢誉志幸はこのアルバムでソロとしてデビューした。
けれどそれ以前に音楽家としてキャリアがそれなりにある。

大沢誉志幸は、1981年年4月、
クラウディ・スカイというバンドでデビューする。
(担当はギターとボーカル)
そこでは活動の成果が芳しくなく、
わずかアルバム1枚とシングル2枚を残しただけで解散することとなる。
けれどその後、当時のエピックのディレクターに気に入られ、
沢田研二等で曲提供し、
大沢誉志幸は音楽家として生命が助かることになった。

つまり大沢誉志幸はソロデビュー前にバンドとしてデビューし、
その後に作曲家として活動していたことになる。
ソロデビューの時点で音楽家としての経験値が高かった。
結果的にこの大沢誉志幸がキャリア
将来有望の
才能のあるシンガーソングライターに
ソロデビュー前に、
他の歌手への曲提供を依頼するという作曲家として活動する手法は
この時代のEpicの伝統的な手法となる。
この手法でシンガーソングライターとして活躍した人では
大江千里、岡村靖幸がいる。
またこの手法の延長で作曲家として大成した人物には小室哲哉がいる。

アルバムの歌詞は銀色夏生が担当している。
銀色夏生は大学卒業後の1982年に作詞家として売り込んでいた。
その中から
当時Epicの音楽プロデューサーであった小坂洋二の目に留まることになり、
そこから音楽ディレクター、プロデューサーであった木崎賢治を紹介され、
作詞デビューすることになる。
木崎賢治はソロデビュー当時の大沢誉志幸の音楽プロデューサーであり、
恐らくそこから、大沢誉志幸とつながったと考えられる。
ソロデビュー前直前の大沢誉志幸と銀色夏生と組んだことがある。
(沢田研二 シングル『晴れのちBLUE BOY』1983年5月10日発売。
カップリング曲「出来心でセンチメンタル」も二人は担当している。
さらに編曲は2曲とも後述する大村雅朗)
この組み合わせは大沢誉志幸のソロデビューを意識してのダックなのかはわからない。

”大学卒業して就職しなくて、1回宮崎に帰ったのね。その春に、詞を100回かいて、
いろんなレコード会社に送ったんだけど、小坂さんが電話をかけてきてくれて、
エピックで会ったの。その時、私の詞を読んで、驚いたって。
本当に宮崎に住んでるのかなって思ったって。もしそうなら、すごい宮崎だねって。
その言い方がしゃれてて(笑)、印象的だった。”
銀色夏生『ものを作るということ』 p65

編曲は大村雅朗である。
当初は大沢誉志幸のソロデビューのレコーディングの際に
元々別のアレンジャーが担当していて、
制作途中で内容に不満があったため、とん挫していることが伝わっている。
このあたりのでサウンド事情は『作編曲家 大村雅朗の軌跡 1951-1997』で
ある程度詳しく書かれている。

”木崎 あ、実はね、大沢のデビュー・アルバムはずいぶん前からやっていて、
半分くらい作ったところで一度すべてボツにしてるんですよ。
―そうなんですか!
大沢はハードボイルドがテーマで始めたんですけど、誰だったっけなぁ、他のアレンジャー
の人でやっていくうちにどんどんかけ離れていっちゃって。そこでいったん中止したんです。
それから大村さんにお願いしました。”
『作編曲家 大村雅朗の軌跡 1951-1997』p101

アルバムのサウンドとしては
デュラン・デュラン、トンプソン・ツインズ、ホール&オーツ
といった当時のイギリスやアメリカの新進気鋭のバンドと
元々、大沢誉志幸が好きだったソウルやR&Bを融合したものを目指していたようである。
そこで出来上がったサウンドは
打ち込みを感じつつ生演奏が主体の端正な1980年代サウンドとなった。
このサウンドは当初は大沢誉志幸本人としては
納得しきれてはいなかったようだけれど、
結果的に大村雅朗はこのアルバムを含めて、
3枚連続でアルバム全曲のアレンジャーを担当することとなる。

満を持した用意周到な形でのデビュー。
銀色夏生とのコピーライティングな歌詞、
全面的に大村雅朗のサウンド、
大沢誉志幸のメロディーの3点が聴ける。

01.e-Escape★★★

02.サディスティック, Cafe★★★
ポップ感がいい。

03.Jokeでシェイク★★★
シンセなのか生演奏を加工したのか判別難しいサックスの音が面白い。
歌詞のニヒルで退廃的な内容がハードボイルドな世界観を作っている。
個人的には佐野元春がコーラスに参加するといった聴きどころもある。

04.宵闇にまかせて (Kiss & Kiss)★★★★★
このアルバムのハイライトで
こういったシンプルな曲だからこそ、アレンジャー大村雅朗の実力が分かる。

05.キッスはそこまで★★★
ポップでキャッチーな曲なのだが、落ち着き具合がこのアルバムの色なのだろう。

06.彼女には判らない (Why don’t you know)★★★
シングルとしてもカットされている。

07.Deep Sleep★★☆
テンションが低い曲調がつづくなか、このアルバムのなかでもっとも
淡々と続く曲。

「キッスはそこまで」「彼女には判らない (Why don’t you know)」
の曲のポテンシャルは高い。
少しでもいいからテンションを挙げるような曲調上げてほしかった。

08.ベッドから Love call★★★☆
低温気味のこのアルバムでポップさを感じる。
「ベッドから Love call」という性的にも聞こえる言葉が
ここでは可愛らしさに感じる。
大沢誉志幸の声とメロディーがそう聴かせていると思う。

09 プラトニックダンサー★★★☆
低音があまり聴こえないのがこのアルバムの特徴である。
そこがいい意味で軽薄さを感じるのだが、
スネアとパーカッションの合わさった音色が気持ちよい。

10 まずいリズムでベルが鳴る★★★
「e-Escape」と曲調、アレンジの音色が似ている。
一巡した、リプライズのような効果を狙ったものなのだろうか。
やや淡白気味でアルバム全体の曲の起伏は少ないが、
アルバムひとつひとつの曲の平均値は高い。

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