ビートルズ 『レット・イット・ビー…ネイキッド』


レット・イット・ビー・ネイキッド

2003年11月17日発売。
何故このアルバムが発売されたのか、
それは『レット・イット・ビー』を知る必要があって、
是非、『レット・イット・ビー』の記事を参照してもらいたい。

このアルバムは
『レット・イット・ビー』のリミックスを基本的としたアルバム。
ただ
4.「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」は
『レット・イット・ビー』では1月26日から演奏、
『レット・イット・ビー…ネイキッド』は1969年1月31日と
演奏の音源を差し替えている。
また『レット・イット・ビー』に収録されてあった
「ディグ・イット」と「マギー・メイ」は収録からはずれ、
そのはずされた2曲の代わりに
8.「ドント・レット・ミー・ダウン」が新たに収録された。
『レット・イット・ビー』のリミックスで終わらせずに、行われている部分もある。
曲によっては、1969年1月の『レット・イット・ビー』の大半をレコーディングした
「ゲット・バック・セッション」の音源まで、対象範囲を広げ、
『レット・イット・ビー』にできる限り、対象曲やフォーマットを合わせつつ、
再構築されている。

もともとの『レット・イット・ビー』は
フィル・スペクターがオーケストラの
オーバーダビング、ミックス、アレンジの修正を施して、
発売されていた。
今作は主にストリングス部分のオーバーダビングをなくし、
編集でビートルズの演奏のベストテイクを細かくつぎはぎして
ビートルズとビリー・プレストンの演奏の心地よさを最重要にして、
制作されている。
少し深く掘り下げて見ると、
すぐに分かるところとしては
1969年1月30日に演奏した音源(ルーフトップ・コンサート)は
サイドギターやエレピのコードを弾く箇所の音量を下げて、
ボーカルが聴こえやすいようにミックスされている。

加えて個人的にはアルバムで
8.「ドント・レット・ミー・ダウン」が
このアルバムに新たに収録されたことが嬉しい。
「ドント・レット・ミー・ダウン」について言及すると、
この音源は、
ルーフトップ・コンサートで演奏されていた音源をもとにしている。
オリジナル版の「ドント・レット・ミー・ダウン」(1969年1月28日に演奏された音源)は
決して音質面では良くなかったし、
今作では、ルーフトップの演奏からの演奏で、
ルーフトップ・コンサートで演奏より良いとはいえなかった。
今作の「ドント・レット・ミー・ダウン」は2回歌った中から、
良い個所を切り貼りして、修正されている。
贅沢にいえば、
オリジナル『レット・イット・ビー』でやって欲しかったことが
ここでは実現されている。

ここでビートルズの音源の修正について言及したいと思う。
ビートルズは60年代に活躍したバンドである。
その60年代当時はレコーディング環境そのものだけでなく、
ステレオのミキシング、
とりわけ音の配置が確立されていたわけではなかった。
ビートルズの楽曲を聴くとき、現在の音の配置ではありえない
ボーカルが片方にしか聴こえないという場面出くわす。
ビートルズの音源を現代的に修正するという気持ちが出てくる。

1999年9月13日に
『イエロー・サブマリン 〜ソングトラック〜』
というアルバムが発売された。
そのアルバムはマスター・テープだけではなく、
ダビングされる前のテープまでさかのぼって、ミックスをし直していた。
あくまで現代的なミックスにすることを目的に
アレンジはオリジナルそのままで、
リミックスをして発売された。

今作はさらに踏み込んで
1969年1月に『レット・イット・ビー』の大半をレコーディングした
「ゲット・バック・セッション」の音源から
もしオーバーダビングしないまま、
ビートルズが当初計画していたどおりに
リリースしていたらどうだったのだろうか?
という仮定で生まれたアルバムだと思う。
名前に「ネイキッド」と付け足そう、と。

この一連のリミックスにつながる仕事は
後に『ラヴ』と出し、
リミックスの対極、課題であったノーリミックスのリマスターのみで発売された
リマスターのみのビートルズのオリジナル・アルバムの発売。
ベストアルバム『1』でのリミックス、
2017年5月26日に
『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』
50周年記念アニバーサリー・エディションで行われたリミックスと続いている。

ビートルズの演奏を現代的にミックスすることで、
後の世代まで聴かせる、
その一環としてのプロジェクトのひとつとして見ると
今作の発売について、腑に落ちるところがある。

このアルバムは
そういったコンピレーションだと割り切れると
楽しめるアルバムではあるのだけれど、
僕はリアルタイムにこのアルバムを手に入れていた時、内容に不満を感じていた。
今にしてみれば、曲順や修正の仕方から、
前述した作品性が少し感じられるようになったけれど、
当時の僕にはプロデューサーの不在、
ただ綺麗に補正されたむき出しの演奏集にしか見えなかった。
アルバムとしての作品性が不在で、「作品」として意思が感じられなかった。

また、当時『レット・イット・ビー』が好きだったから、
キャンペーンの一環として
『レット・イット・ビー』が悪くいわれていたことが嫌だった。
さらに日本盤のブックレットの日本人のライターが書いた
フィル・スペクターを悪者、
あるいは無能なミュージシャンのような記述はどうかと思う。
ポール・マッカートニー以外のビートルズのメンバーは
フィル・スペクターを尊重していたと思う。
アルバムを新装するときがもし来たら、
ブックレットの修正をしてもらいたいと思っている。

ボーナス・ディスクとして本編とは別にある 「Fly on the Wall」は
会話とほとんど1分弱の音楽演奏の断片で出来ている22分弱のコラージュ作品である。
演奏として、完結できなかった音源をここで、少し収録させたい、
けれど、そのままでは収録できない、
そこで会話と一緒収録させるコラージュ作品にしたと僕は推測している。
ただこのボーナス・ディスク、音楽として成立しているとはいい難く、
一度聴いたら、聴かなくシロモノとなってしまっている。
これだったら、
ビートルズ『アンソロジー3』
(1996年10月28日。ビートルズのアウトテイク集、「ゲット・バック・セッション」もこの時期に該当する)
に収録はずされていた「ゲット・バック・セッション」で演奏した音源を収録して欲しかった。
ただ、そうした音源は、また別の機会で公開するために、お蔵入りにしたのかもしれない。

今後おそらく、映画『レット・イット・ビー』の修正版が公開されると思うけれど、
そのとき、このアルバムはどういう位置づけになるのだろうか。

1.ゲット・バック – Get Back
2.ディグ・ア・ポニー – Dig a Pony
3.フォー・ユー・ブルー – For You Blue
4.ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード – The Long and Winding Road
5.トゥ・オブ・アス – Two of Us
6.アイヴ・ガッタ・フィーリング – I’ve Got a Feeling
7.ワン・アフター・909 – One After 909
8.ドント・レット・ミー・ダウン – Don’t Let Me Down
9.アイ・ミー・マイン – I Me Mine
10.アクロス・ザ・ユニヴァース – Across the Universe
11.レット・イット・ビー – Let It Be

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