尾崎豊 『回帰線』


[CD] 尾崎豊/回帰線(Blu-specCD2)

1985年3月21日発売。
尾崎豊のセカンドアルバムである。
デビューアルバム発売から1年と3カ月、
この間、活動はライブのみ。
テレビには一度も出ていない。
もしかして歌っている映像も一度も
放送されたことなかったのではないだろうか。
それまでのヒットらしいヒットはシングル『卒業』のみ、
その『卒業』もオリジナル盤の最高位が20位で必ずしも
あまりヒットとはいえない。
(当時はレコードで発売されている。ブレイク後、CDで再発されて8位を記録した)

にも拘わらずの
オリコンアルバムランキングで1位。
この時点で熱狂的なファンがかなりいたことが分かる。

ライブは精力的に行われていた。
アルバム発売直前に「FIRST LIVE CONCERT TOUR」を行っている。
1984年12月3日 秋田市文化会館から始まり、
1985年2月7日 札幌教育文化会館までの21公演。
アルバムの発売日が1985年3月21日なので、
レコーディングはツアー終了直後にも行われていたかもしれないが
(だとしたら数日でレコーディングを終わらせないと発売スケジュールに間に合わないと思う)
おそらくはツアー中にアルバムを制作していたと思われ、
かなり過酷なスケジュールだと予想される。
この過酷なスケジュールの組み合わせはこのアルバム発売後も続き、
おそらくそのことが、
次の年に当たる、
1986年の活動停止の原因のひとつになったのではないかと僕は思う。

アルバムの内容は
前作同様、学校への反抗を引き継いでいるように見えるが、
明確に学校がテーマになりえるのは「卒業」のみ。
アルバム全体の世界観は卒業して間もない生活を舞台としていると考えられる。
尾崎豊=学校への反抗という特色は
もうここから変わろうとしている。
学校を舞台としたアルバムはここで終わる。
そのことが尾崎豊にとって唄う言葉が見つからない要因となる。
このアルバムではそのことがまだ起きる前の
迷いのない言葉で並べられた、
疾走感を感じさせるアルバムとなっている。

1.Scrambling Rock’n’Roll★★★
アップテンポのロック全開で
歌詞はこの時期の尾崎豊の良くも悪くも独善的な部分が出ている曲。
渋谷のスクランブル交差点が舞台で、
その交差点で歩き、
まるで自分が今生きていること、そして社会に何も疑問を感じない人に
熱く(あるいは暑苦しく)問いかけている形になっている。

渋谷が舞台なのに野暮ったさを感じ、シティポップ感がないのが、
ある意味この曲の持ち味ではないだろうか
と今にして思っている。

2.Bow!★★★☆
前曲に引き続きロック全開だが、こちらはミドルテンポの曲。
ストレートで挑発的な言葉と
サビの挑発的だが、ストレートさを少しひねる言葉を並べ加減が面白い。

ブルース・スプリングティーンの某曲に似ているとよくあるが、
それはそれで、僕はそのことはあまり気にならない。

3.Scrap Alley★★★
内容は高校時代を振り返るもの。
曲調やメロディーがコメディーっぽくなっている。
4.と5.が内容の重たい曲なので、
あらかじめ明るいタッチの曲があってバランスを取ろうとしているように見える。

4.ダンスホール★★★★★
ダンスホールで
踊っている(働いている)ひとりの女性の物語。
そこでの女性の人間性、荒んだ生活感が鮮やかに浮かび上がせる。

この曲はデビュー前の
CBSソニーのオーディション(1982年)で歌っている。
映像も残っている。
この曲だけでデビューしたわけではないと
思うが、
この曲を聴いてオーディションの審査員は
どう思ったのだろうか。
基本的にはメロディーと歌詞は変わっていない。
歌詞の構成が前後しているくらいだ。
ただその歌詞の構成がストーリー部分で上手く機能しているので、
変更の効果はそれなりに大きい。
ただデビュー前の尾崎豊にはメロディー部分にも不満があったらしく、
『NOTES: 僕を知らない僕 1981-1992』p73で「メロ直し」と書いている。
それで1stアルバム『十七歳の地図』(1983年12月1日発売)に収録されず、
このアルバムに収録されるまで延びたのかもしれない。

例えば、尾崎豊の有名な曲で「I Love you」がある。
僕は別に「I Love you」という曲を
10代(17歳)で作った事実に驚きはしない。
誤解を恐れずに言えば、
10代で水準の高いポップな曲を作れる人は探せばいる。
そこから世の中に出ることはまた違った要因が必要で、
大手レコード会社で
デビューするにはなおさら、ルックス、コネ、運といったものが必要だが、
しかし尾崎豊が16歳でこんな歌を作れたことが未だに不思議である。

5.卒業★★★★★
サビの「夜の校舎 窓ガラス~」というフレーズがインパクトの強い曲だが、
僕はそのガラスを割る部分以外の歌詞がむしろ重要だと思っている。

学校の卒業がテーマだが、
実際は日本社会の
「支配と自由」について唄われている。

どこかを卒業してもそれは所詮、思い出の他になく
また違う場所へ支配される。
高校が大学へ、大学が会社へ。
それは生きている限り、一生続くかもしれない。
この社会に生きている限り
「仕組まれた自由」(会社か政府が設定した休日)にしか自由はない。

僕はこの唄を聴いて
今生きている社会(2017年)が
ここで描かれている1985年の社会から、
本質的に少しも変わっていないのではと感じ、愕然とすることがある。
多くの人が尾崎豊の歌に共感し、
「自由」に対して何か考えて迷い、生きた。
それでも結局、
それから30年以上たった今の日本の社会でも
「自由」を感じることは少ない。

6.存在★★★
観念的な言葉が並び、ここにリアリティーを感じるかは年齢によるものだと思う。
僕は10代の頃、この歌詞の言葉が入ってきた。
メロディーやサウンドの曲調が明るい。

7.坂の下に見えたあの街に★★★
一人暮らしを決めて実家から出ていくことがテーマになっていて、
ここでも曲調が明るく、軽妙なポップスとなっている。

ここでアルバム構成について少し書きたいと思う。
1.と2.で挑発的なロックな唄
3.がコミカルで明るい曲(1.~3.が明(明るい曲))
4.と5.が翳りの強い曲(暗(暗い曲))
6.と7.が明るい曲となる
8.~10.までの3曲は暗い曲となり、アルバムのバランスを作っている。

次の曲から最後の3曲にバラードを配置することで
このアルバムを盛り上げ、佳境であることを示している。

8.群衆の中の猫★★★★☆
歌詞の内容は「ダンスホール」に曲調、テーマは近く、
「ダンスホール」の王道のポップスに整えたようにも見える。
歌詞の言葉が語り掛けている分、
「ダンスホール」に比べてより聴き手はラブソングと感じることが出来る。
尾崎豊の繊細さを見て取れる。

この曲はライブで歌われたことはキャリアを通して1度しかなくて
(1988年東京ドームにて行われた「LIVE CORE」)、
その音源が収められたライブアルバム
『LIVE CORE LIMITED VERSION YUTAKA OZAKI IN TOKYO DOME 1988/9/12』に入っておらず、
僕はそのことが、とても残念に思っている。

9.Teenage Blue★★★★
尾崎豊なりのブルースナンバー。
不良の尾崎豊というイメージそのままの歌詞。
かなりキザに言葉が並べられている。
着飾った姿がロックミュージシャン姿が目に浮かぶ。

10.シェリー★★★☆
代表曲の一つ、
このアルバムの中ではおそらく「卒業」の次に有名な曲。

散々心身ボロボロになった唄の中に登場する主人公、
ひとりの女性に胸の内を聞かせる。
しかしそれでもなお、「俺に愛される資格はあるのか」
といったナルシストなフレーズ。
かなり評価が分かれる言葉と曲。

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