尾崎豊 『壊れた扉から』


壊れた扉から [ 尾崎豊 ]

1985年11月28日発売。
尾崎豊3枚目のアルバムである。
このアルバムは、ツアー中の間に曲作り、レコーディングが敢行されて制作された。

ライブは前年から精力的に行われていた。
このアルバム直前に「FIRST LIVE CONCERT TOUR」を行っている。
1984年12月3日 秋田市文化会館から始まり、
1985年2月7日 札幌教育文化会館までの21公演。

そのあと「TROPIC OF GRADUATION TOUR」が
1985年5月7日立川市民会館から1985年8月25日大阪球場までの38公演。
さらに「LAST TEENAGE APPEARANCE TOUR」が
1985年11月1日四日市市民文化会館から1986年1月1日福岡国際センターまでの27公演。
どれだけこの時期尾崎豊がライブを行っていたことが分かると思う。

そうした中にもかかわらず、アルバムのレコーディングが行われた背景には
レコード会社側が10代である内に3枚目のアルバムを出そうとし、
アルバムの発売日も尾崎豊の20歳の誕生日前日に決めたからであった。
実際アルバム制作もあと一日間に合わなければ、
発売できないところまで切迫する程に、
厳しいスケジュールの中で制作されている。

内容はかつての2作のような学校を舞台にすることはなくなり、
10代あるいは20代の内省がテーマとなっている。
内省的がテーマなのは次のオリジナルアルバムの『街路樹 』と共通しているが、
『街路樹』がその当時の尾崎豊にまつわるトラブルを反映されてか、翳りが強いに対して、
このアルバムはそうした好き嫌いが分かれる苦々しい翳りをあまり感じず
青春な繊細な美しさを浮かび上がっている。
『街路樹』が暗闇だったら、僕はこのアルバムは黄昏を感じることができる。

サウンド面で、これまでの2作は西本明と町支寛二が担当していたけれど、
約9曲4曲は尾崎豊がHeart Of Klaxonとアレンジを行っている。
このアルバムで尾崎豊はサウンド面でも主体性を見せ始めている。

アルバムの約2か月後の1986年1月にコンサートツアーが終了し、
尾崎豊は無期限の活動を休止する。
直後に約1年間ニューヨークへと移住し、キャリアとしても一区切りすることとなった。

全作詞・作曲: 尾崎豊
編曲:(1、2、3、5、9)西本明
Yutaka Ozaki & Heart Of Klaxon(4、6、7、8)
chorus arrange: 町支寛二(2、4、6、7)
strings arrange:西本明(8)

1.路上のルール★★★☆
デビューからライブ活動を精力的に行ってきた結果なのだろうか、
1stアルバム『十七歳の地図』(1983年12月1日)
よりも声質が少し枯れている。
アルバム制作の背景を知っているからだろうか、
この楽曲を聴いたとき、尾崎豊が
西本明がアレンジしたサウンドの中で、
着せられた中で、余裕のないまま、
もがいている歌っているようにも見える。

2.失くした1/2★★★☆
繊細さを感じるポップス、
王道のアイドルグループが歌っても違和感もないぐらいの曲調。
個人的にはこの後のライブアレンジが好きなだけに、
尾崎豊とHeart Of Klaxonのバージョンを
スタジオ録音で聴いてみたい気持ちになる。

3.Forget-me-not★★★★
この楽曲はワンテイクしかレコーディングできなかった。
ライブ活動を精力に行って、
前作『回帰線』(1985年3月21日)から
発売の間隔があかずに
レコーディング会社のマーケティング上で
アルバムを無理やり制作されたため、
スケジュール的に余裕がなかったエピソードとして挙げられる。

この曲で歌われる尾崎豊の音程が全体的にやや不安定で、
ラフに歌われている。
けれども、
この曲の持っているキレイなメロディーと組み合わせたときに
そうした歌唱も魅力に感じるから、音楽は面白いのだと思う。

4.彼★★★
アルバムの構成で考えると、
派手な最初の3曲と地味さを感じる2曲
抽象的な言葉と退廃さを感じさせる言葉が並んでいる。

5.米軍キャンプ★★★☆
場面は正確にはタイトルどおりの米軍キャンプでなく、
米軍キャンプ跡。
尾崎豊が育った朝霞の米軍キャンプ跡がモデルになっているのだろうか。

この曲の狂気をサウンドで表現しているとしている。
方向性は素晴らしく、ある程度成功している。
ただサウンドは基本的な大枠があるだけで、
あっさりしすぎているのではないかと僕は思う。
僕としては、
もう少しサウンドを作りこんで欲しかったということが正直な気持ち。

6.Freeze Moon★★☆
元々デビュー前にあった曲で、
「バーガー・ショップ」というタイトルだった。
この2曲後に「ドーナツ・ショップ」があるから、
改名したのだろうか。
このアルバムに収録している
「ドーナツ・ショップ」のコインの表と裏みたいな関係で、
表のようなライブ映えのする曲である。

80年代にあったヤンキー文化の匂いがする。
当時そういった層に好かれていた尾崎豊であって、
ここまで、ヤンキー文化の匂いがする楽曲は珍しい。
コメディーさを感じさせる曲調の明るさがそうさているのだろうか。
ただ楽曲としては弱い。
アルバムを完成させるスケジュール的に厳しく、
アルバムを埋めるために、苦肉の策として、
引っ張ってきたのではないかとさえある。

それでもこの楽曲が聴かせることができるのは、
サウンドに尾崎豊がやりたかった意図が感じられること、
何よりも尾崎豊の歌唱力の高さである。
そういう意味では
同じアルバムにある、同じアップテンポの曲であって
楽曲の力は強いけれど、
サウンドが着せられた感の強い「路上のルール」と対比になっている。

7.Driving All Night★★★☆
それにしても尾崎豊が、歌がうまい。
このアルバムの後半(「Freeze Moon」から始まるレコードのB面)が
尾崎豊の歌唱の総合としてのピークだったのではないだろうか。
楽曲としては、前曲「Freeze Moon」を正統強化したような曲で、
曲の水準が高いのだけれど、
サウンドとしての少し凡庸で、
演奏が無難に終始していて、特に突起のないリズム隊のビートが気になる。
尾崎豊の歌唱の素晴らしさが目立っている曲なだけに、惜しさを感じられる。

1985年8月25日大阪球場でのライブにて行われた音源が、
1985年10月21日にシングルとしても発売された。

8.ドーナツ・ショップ★★★★☆
もっとも繊細さを出すのと同時に青さを前面に出した曲で
歌詞と語りに青さが目立つのだけれども、
メロディーの美しさと世界観は魅力的である。
サウンドも基本的に尾崎豊とHeart Of Klaxonが作っている。
サウンドの完成度も西本明が担当した「失くした1/2」より高い。
Heart Of Klaxonが関与した
後の「失くした1/2」のライブバージョンのサウンドの完成度といい、
Heart Of Klaxonの中のメンバーに、
アレンジ能力が優れた人がいたのか、
それとも尾崎豊は実は、アレンジ能力を他の人と手伝えば、持っていたのか
この曲を聴いて気になった。

最後の語りの青さは個人的には好きだけれど、
語る言葉は不必要に観念的で硬くて、
楽曲の水準が高いだけに、
語りの部分をもう少し練りあげて欲しかった。

9.誰かのクラクション★★★
西本明によるアレンジで
バンド主体だけれど、シンセサイザーが目立つAORサウンドで、
サウンドを中心に聴くと心地よい尾崎豊の抽象的な心象を
覗いているような作品になる。

ただ最初にメロディーを作り、歌詞を当てはめるという
メロディー主体の尾崎豊の初期3部作の楽曲群とあえて比べると、
この曲のメロディーは無理やり作った感が否めない。
僕はこの曲を初めて聴いた時は先程の印象と楽曲として冗長だと感じていた。
ただその当時から僕は今こう年数を重ねて、
この楽曲に対する印象が変わっている。
音楽の何を聴くかで評価が変わるという意味なのだと、この曲を聴いて実感している。

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