Mr.Children 『深海』


深海

1996年6月24日発売。
内容全体は
よくも悪くも一般的にイメージするエッジのあるロックをテーマとして
表現している。
ただ僕にはどうしても、あざとさを感じざるを得ないアルバムである。

またアルバム収録曲は独立した1曲として聴くには
曲単体として見るとラフで、とてもバラけた曲が多く収録されている。
同時期に作曲されたアルバム曲としてまとまりのある曲は
シングル『名もなき詩』『マシンガンをぶっ放せ -Mr.Children Bootleg-』
のカップリングとして
または次回作の『BOLERO』(1997年)のアルバム曲として回されたのではないだろうか。

アルバム構成はピンクフロイドの『狂気』をかなり意識している。
(前作の『Aromic Heart』のタイトルも
ピンクフロイドの『原子心母』原題:Atom Heart Motherからきているのだろう)
バラけた曲に対してアルバム統一感を与えるために、
またある意味多忙なスケジュールのMr.Children、桜井和寿が
この時期を乗り越えるにはベストな選択と判断したからかもしれない。

それでも前作のシングルでは1994年6月発売『innocent world』(あるいは『CROSS ROAD』)
から始まる大ヒット曲を連発していた勢いはと衰えず、
1996年になってもシングル『名もなき詩』『花 -Memento-Mori-』はともに大ヒット、
さらにアルバムは『Atomic Heart』から2年弱離れていた。
そんな中での発売なので、
このアルバムの売り上げは274.5万枚と今では考えられない
売り上げを出している。

レコーディングは
海外でのウォーターフロントスタジオでアナログレコーディングを中心に行っている。
90年代後半でアナログレコーディングとはかなり変則的だが、小林武史の意向だったようだ。
アナログテープの影響か、ややローファイを感じさせるアルバム全体の色合いは
このアルバムで狙っていたところと一致はしていると思う。

作詞・作曲 桜井和寿(インストゥルメンタルを除く)
編曲:小林武史 & Mr.Children

1.Dive★★
水にダイブしたSE。
アルバムの冒頭にSEを使う手法は『Atomic Heart』でも行われていた。
アルバムにコンセプトと統一感を与えるという手法は
『BOLERO』のインストルメンタルでも強いて言えば受け継がれているが、
このアルバム以降では、限定的になり、あまり使われなくなる。

メロディーのあるインストルメンタルといった音楽よりも
サウンドコラージュとしてSEが
全面的に使われているのは『Atomic Heart』と『深海』のみ、
そういった意味では
アルバムの曲調を大きく変えている2枚だけれど、
実際はあまり断絶していないのかもしれない。

2.シーラカンス★★☆
シーラカンスとは長い間、絶滅したといわれていた深海の魚。
騒々しい日常から逃れたいためのメタファーとして出しているのだが、
この分かりやすいたとえがストレートさを感じさせる。
この曲の展開は『狂気』の「マネー」を意識していると思う。

3.手紙 ★★★☆
メロディーがシンプルで素朴な小さなバラード。
前曲の「シーラカンス」の方がアルバムとしては
テーマとなっていて重要なはずなのだけれど、
僕にとってはこちらの方が今聴くと、心に入ってはいってくる。

4.ありふれた Love Story ~男女問題はいつも面倒だ~★★★
あるカップルの恋愛話が歌詞で
タイトル通り、「ありふれた」ことを強調して
テーマにしている。
あくまでこの唄は「ありふれた Love Story」という説明をして
若い男女の恋愛を無責任に、劇的に、美化して映像化した
トレンディドラマの恋愛に対して
パロディ―とアンチテーゼのようなメッセージ
を伝えている。

5.Mirror★★★☆
このアルバムでは浮いて目立つくらいのポップソング。
小さいな佳曲で実際に歌詞で
これはヒット曲でないポップソングですよ
という旨を説明している。
この歌詞の表現を説明的と見るのか、
等身大さを感じるかは人によって分かれると思う。
ただこの唄では後者の方が多い気がする。

6.Making songs ★
レコーディング風景を感じさせる、
次の曲「名もなき詩」につなげるためのSEのようなもの。
曲と曲で「名もなき詩」と橋渡しができずに、
またコンセプトがありますよという意味合を
つけるためにあるのかもしれない。
ただつなげ方に説明くささを感じる。

7.名もなき詩★★★★☆
1996年2月5日にシングルとして発売され
230万枚も売れた代表曲。
当時パソコンのリッピングやダウンロードがなかった時代、
この曲が聴きたくて、
このアルバムを買った人が多かったのではないだろうか。

枯れた声が曲調とあっている。
ビートルズの「涙の乗車券」に似ているドラムが
ここでは効果的に使われている。

8.So Let’s Get Truth★★★☆
長渕剛の声をマネてパロディにして
これまたいいそうでいわない社会的な歌詞に乗せて歌う。
声が結構似ている。
この曲は
このアルバムに収録されたからこそ、効果的だったのだと思う。
できなかったら、
やや強引にでもカップリング曲になっていたか。

9.臨時ニュース★
「マシンガンをぶっ放せ」をつなげるために用意された
臨時ニュースを読み上げるアナウンサーとテレビのザッピングのSE。

それにしてもやはり、
アルバム収録曲だけでは、
曲と曲をつなげられなかったために
このアルバムはSEを多用しているのだろうか、と僕は考えてしまう。
特にこの「臨時ニュース」と「マシンガンをぶっ放せ」の流れを聴くと
小林武史が苦労してSEを作っている姿が浮かび上がる。

10.マシンガンをぶっ放せ★★★
波紋的すぎる歌詞だが、
この奥行きのなさがロック感を出しているともいえる。
ただこのサウンド質感はローファイなアナログ感が出ていて心地よい。
ウォーターフロントスタジオで
レコーディングした成果が出ているのだろうか。

アルバム発売後の1996年8月8日に
『マシンガンをぶっ放せ -Mr.Children Bootleg-』としてシングルで発売する。
ただそのシングル、聴きどころは
この曲ではなくカップリング曲であるといいたい。

11.ゆりかごのある丘から★★★
これがデビュー前にあったがときは少し驚いたが、
キーが変わり、スローになって、アレンジを全面的に変えている。
歌詞の世界観がこのアルバムにあっている。

アルバムに収録される際に、
歌詞も書き変わっている。
特に後半のAメロ部分が全面的に変わり
インディーズ時代の頃は
「ゆりかごにのある丘」が戦争で焼け野原になっているのに対して、
このアルバムのバージョンでは
「ゆりかごにのある丘」はそのままで、
自分の置かれている立場や状況だけが戦争によって
変えられてしまったという内容になっている。
僕は書き変わったバージョンの方が
失われたことというテーマを上手くあらわしていると感じた。

この曲のアウトロで
桜井和寿は「シーラカンス」と何度もつぶやいている。
残念ながら曲としての世界観が損なわれてしまった。
アルバムのコンセプトを高めるため、
また統一感を狙ってのフレーズだと思うのだけれど、
やめてもらいたかった。

この曲の時間は8:52とアルバム収録曲最長であり、
嫌な見方をすると
アルバムをもたせるためにこの曲をここに引っ張て来たのだろうかと
考えてしまう。

12.虜★★★
このアルバムの収録曲に王道の曲は少ない。
『深海』は暗い曲が多いというより、
『BOLERO』に収録できそうもない曲を収録したように見える。
この曲もまさにその一つ。
だけれども、歌詞の表現が
桜井和寿特有の皮肉とあくまで価値観は自分で決めるという意思が伝わり、
この曲こそ、アルバムで最も桜井和寿の毒気を感じられる。
だからこそアウトロのゴスペルシンガーの部分は
もう少し、ひねって起用してもらいたいと贅沢に感じるのだろう。

ピンクフロイド『狂気』との関連性をあえて言及すれば、
『狂気』前半の終わり、
「マネー」につなげるまでの長いゴスペルソロとの類似性を指摘するのだと思う。

13.花 -Mmento-Mori- ★★★★☆
大ヒットシングル『名もなき詩』の約2カ月後の
1996年4月10日に
この曲のみの500円シングルとして発売され、
150万枚の売り上げを記録。
勢いと同時にカップリング曲を
収録する余裕がないという忙しさを物語っている。
こじつけ覚悟で書けば、配信のみの発売の先駆と見れるか。
「Mmento-Mori」という言葉はラテン語で「死を想え」という意味、
藤原新也の『メメント・モリ』から来ているらしい。
サブタイトルは確かに『深海』のコンセプトそのもの。

全体的にドライなサウンドでアコースティックでやっていても
かなり再現性が出来ると思う。
それにしても鈴木英の乾いたドラムが凄い。

14.深海★★
深海のテーマそのものなのだが、
「死にゆくことさえ憧れるのさ」というフレーズに
桜井和寿の若さを感じる。

このアルバムは
主にこの当時に取り巻いていた
ミスター・チルドレンの忙しなさが生んだ産物に思えるけれど
それでも必死に乗り切ろうとした
ミスター・チルドレン関係者、特に桜井和寿の姿が見える。
桜井和寿の20代後半の若さゆえの背伸び感がまた魅力だと僕は思っていて、
そのことに注目するとこのアルバムの楽しさが増すと思う。

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