スガシカオ 『Sweet』


Sweet

1999年9月8日発売。
スガシカオの3枚目のアルバム。

1stアルバムからセールスが好調だったことから、
このアルバムが制作開始するときには、
いい意味で環境としての変化があったのだと思われる。
宅録の要素もあった1st『Clover』からアルバムごとに
参加ミュージシャンと
スガシカオ自身のプライベートスタジオであったクローバー商会から、
レコード会社所有のスタジオ、
いわゆるレコーディングスタジオに録音の比率を増やしていると考えられる。

環境としてアルバム制作にお金を掛けられるようになっても、
クローバー商会として録音することやめていないのだから、
1stと2ndから断絶することは避けたのかったのかもしれない。

1stからキーボディストとして参加していた森俊之が
今作ではアレンジと演奏でコミットする比率が増え、
初めてCo-sound produceの一人とクレジットされた。
それまでのスガシカオ自身が多く行っていた打ち込みによるシンセサイザーから
オルガン、エレピ、クラヴィネットといった生鍵盤に置き換り、音数も増えている。

その結果それまでの2作と比べサウンドに、
にぎやかさと同時に繊細さを感じるようになった。
そのことがファンクやソウルだけだと敬遠気味のひとにも、
受け入れられたのだろうか、オリコン・アルバム最高位週間3位と
前作以上の成績を収めている。

僕としても、オリジナル・アルバムとして聴くのなら、
このアルバムから入ることが良いのではと思っている。
個人的には、
スガシカオのオリジナル・アルバムの中でもっともフォーク色が強いアルバムと思っていて、
「畳のにおいのするブラック・ミュージック」だなと感じている。

さらに1stからエンジニアの一人として参加していた中村文俊が
今作ではレコーディング、ミックス、マスタリングと
エンジニア全般を一人で担当しており
Co-sound produceの一人として前作と同じくクレジットされている。
(Co-sound produceは中村文俊、森俊之の二人)
そうした結果だろうか、ハイファイになりすぎず、
メジャー感もありながら、
インディーズのような
ローファイの角のある質感をもっていることになったのではないだろうか。

1.あまい果実
1999年8月18日にシングルとして発売された。
アルバムタイトル「Sweet」はこの曲の名前からきていると考えられる。

イントロのチープなリズムボックスの音色とやや隠し味気味に低音のノイズを
入れたサウンドがとてもインパクトある曲。

腐る寸前のあまい果実、もっとも甘く、しかしその後は腐る一方、
終わりの始まりがテーマで歌詞の内容の生活感とともに、
世界観を広げている。

2.正義の味方
延々とスリーコードのファンクのナンバーで、
単純なメロディーとコードでファンクを突き進んでいる。

歌詞の内容は
借金で最終的にどこか引っ越(夜逃げ?)した人を
いつか活躍を待っていて非番である正義の味方と例えている曲。
ブラックジョークだけれども、
「みかんをくう」といった描写がほのぼのとしたユーモラスさで
それほどダークさを感じさせないところが表現力としてさすが。

3.夕立ち
タイトルと同じくフォークっぽい曲調はありつつ、
スガシカオのファンクのサウンドがある。
楽器によるものが大きい。
その要因として左のクラビネットが大きいと思う。

4.ふたりのかげ
アコースティックによる弾き語りが
主体の黄昏た曲調のバラード。

ストリング、エレピが曲を引き立て、
終始鳴っているやや高音がない痩せたメトロノームの音がリズムの役割となっている。
古時計のような音を演出しつつ、クリック感を出し
リズムにタイトさを感じさせていて、
またそのタイトなリズムさを出したことで
バラードにおける叙情さをいくらか切り捨てることができている。
4畳半フォークの貧乏くささは感じられない。

個人的にはこの曲をたびたび弾き語りしていて、
フルスコアとギター弾き語り集で、
ギターの弾きポジションが違うことが気づかされた。
ギター弾き語り集はフルスコアに比べて、ポジションが高く、
恐らくこれはこの曲にあるエレピが弾き語りだとない分、
ポジション高く弾いた方が良いという判断だと思っている。
逆にアレンジ的に、エレピがあるから、
周波数がぶつからないようにギターの抑え方を考えているのだと少し勉強になったことを記憶している。

5.310
打ち込みのリズムから
歌詞の内容が性的であり、
ただセクシーさはなく
堕落で惰性的な世界が描かれている。
メロディーとイントロが終わったサウンドは淡々としていて
それが歌詞にある気だるさと合っている。

6.夜明けまえ
1999年6月23日にシングルとして発売された。
Aメロ、Bメロにメロディーの起伏があまりなく、リズムがひたすら流れていて、
サビにキャッチーなメロディーが流れる。
潔く、右に分かれているアコースティックギターのカッティングが心地よい。

7.師走
この曲、「師走」に出てくる
「山崎」は山崎まさよしのこと。
当時、同じ事務に所属していて、仲が良かった。
そして
「ねえ 今度デートするときはぼくと中華料理なんてどう?」
というフレーズもおそらく山崎まさよしと関係あると思われる。

山崎まさよしは『中華料理』(1996年2月25日発売)
というシングルを発売している。
「中華料理」の歌詞は一人の女性を口説くために
いろいろと想いを語るという内容で
その曲の歌詞のサビの最後のフレーズが
「そして俺とならどんなとこ行きたい 中華料理はいけるかい」となる。
これは「師走」と歌詞の状況内容に似ていて、
そもそもこの曲は「中華料理」はパロディとして作られたのではと思える。

派手になり続ける右のカッティングギター、
チープさがあるけれども、高音が目立つ派手さを感じる打ち込みのリズム。
ユーモラスな歌ではあるけれど、
ほのぼのさはサウンドの音色ひとつひとつは程遠く派手である。

8.グッド・バイ
ブリブリのベースが心地よい曲。
歌詞から
前曲の「師走」と淡々とした日々の暮らしが感じられ、
こうしたJ-popにありがちな感情だけでなく、
生活感を描くことが
このアルバムの魅力なのだろう。

9.いいなり
ハードなファンクサウンドで、
歌詞はスガシカオのデビュー・アルバムである
『Clover』(1997年9月3日)にある「イジメテミタイ」続く、
スガシカオの性癖で、
支配欲と性的な部分がむき出しになった内容である。
しかしこういったものを書くからこそ
自分の表現したいものは表現しているという説得力につながっていると
僕は考えている。

10.ぼくたちの日々
1998年10月28日シングルとして発売された。
コンビニで買った途中でメロディーが思い浮かび、
何も買わずに帰ったエピソードがある。
いつもボイスレコーダーでメロディーをため込むスガシカオとしても
メロディーとそれに付随してなっていたサウンドと
そして世界観なのだろう。
相当気に入っていたと思われる。

歌詞はタイトルどおりの日々自分たちの生活の中で
抱えている欲望や卑怯さが内容で、
そしてその諦念さを感じられる。
マーチがそうした諦念さ、さらに進んで死生観が見えている。
ニューオリンズでは葬式にマーチを使らしい。
そうした乾いた諦観が偶然なのか
歌詞の内容に合っている。

「いわゆるジャズ・フューネラルというお葬式の伝統がありますね。起源ははっきりしていませんが、
ニュー・オーリンズ独特の伝統です。棺が教会から出て、墓場まで運ばれていくときにブラス・バンド
遅いテンポの悲しい讃美歌なんかを厳粛に演奏しながら行進していきまよね。
ところがお葬式が終わって帰ってくるときは一転してゴキゲンな曲をやるんです。ブラス・バンドですから、
4分の2拍子のマーチング・リズムで軽快でよくはずむようなもの。」
ピーターバラカン 『200CDピーター・バラカン選ブラックミュージック』p142

けれどこの諦観さがある種成熟したスガシカオらしさを感じられ、現実感はある。

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