吉田拓郎 『今はまだ人生を語らず』


人生を語らず

1974年12月10日発売。
この時期はかまやつひろし「我が良き友よ」で大ヒット、
森進一「世捨人唄」「襟裳岬」を提供し、作曲家として成功している。
そのことと関係しているのだろうか、
前作のスタジオ・アルバム『伽草子』から変わり、勢いを感じる歌謡曲が並ぶ。
フォークロックで今のJPOPを
感じることが出来る代表作『元気です。』がむしろある意味、異質であったと言わんばかりに
これ以後、吉田拓郎のアルバムは
歌謡曲要素に強いメロディーを基本にした内容となる。
そう考えると、このアルバムは
吉田拓郎の基本軸が確立したアルバムだと見ることが出来る。

1972年から始まっていたソニー期最後のアルバム。
このアルバム発売後の1975年6月に
吉田拓郎は小室等、井上陽水、泉谷しげるとともに
レコード会社フォーライフ・レコードを設立する。

なお現在手に入れることが出来るアルバムには
「ペニーレインでバーボン」が収録されておらず、
『今はまだ人生を語らず-1』となっている。

全作詞・作曲:吉田拓郎
except 3,4,7 作詞:岡本おさみ
   10 作詞:安井かずみ

1.ペニーレインでバーボン
アルバム冒頭の
疾走感と力強さが何よりの魅力である曲。
字余りなメロディー、
ボブ・ディランと比べてしまうこともあるかもしれない。

この曲は僕は手元にあるCDには収録されていない。
歌詞の中に差別用語ともとらえられている言葉があるからだ。
僕はこの差別用語とされる言葉は差別用語だと思っていないし、
差別助長するとは到底思えない。
言葉狩りの典型みたいなことが起きている。
次の曲であり表題にもなる「人生を語らず」以上に
アルバムで重要な曲であるだけに残念さが大きい。

何回もYouTubeで(残念ながら)聴いていたけれど
男らしい吉田拓郎が十分魅力な言葉に勇ましさを感じる。
個人的には最初の
1番の「諸行無常」に逆らうところに、力強さを感じる。
ただバーボン(酒)で最終的に解決しようとする歌詞に
僕には消化不良を感じる。

この曲が発表されて約10年後、
「ペニーレインは行かない」という曲を唄う。
(『FOREVER YOUNG』1984年11月21日発売)
ここでも時に逆らうことをテーマにした内容が出てくる。

2.人生を語らず
人生を振り返るにはまだ若いというテーマの内容で
前曲の「ペニーレインでバーボン」と続いて疾走感のある曲。
この勢いが大変強い2曲が続いて収録されていることが、
このアルバムの最大の魅力であるだけに
「ペニーレインでバーボン」が収録で外されていることが本当に痛い。
この-1のままで聴く場合、かなりアルバムの評価が変わると思う。

3.世捨人唄
森進一に提供し
森進一のシングルとして
「襟裳岬」との両A面として1974年1月15日に発売された。

タイトル通り、世捨て人が主人公の唄。
森進一のバージョンを聴くと
「襟裳岬」に比べて王道の演歌調になっていることから、
この曲の方が当初は期待されていた可能性がある。
吉田拓郎のバージョンはフォーク・ロック色があって、
この曲はアルバムの中で気に入って聴いている。

4.おはよう
朝呼びかける働く男に対して呼びかける唄。
歌詞が「働きものの酔っ払い」「生きていくのが下手な男たち」といった言葉がなければ、
当時の歌謡曲を歌う他の歌手、
アイドルが歌っても違和感のない曲調、メロディーの曲である。

5.シンシア
かまやつひろしと共演。
「よしだたくろう&かまやつひろし」として
1974年7月1日にシングルとして発売される。
なお、かまやつひろしはその半年後、
吉田拓郎作詞・作曲の「我が良き友よ」を提供してもらい
シングルとして発売(1975年2月5日)、
週間オリコン・シングルチャート1位を獲得。
月間オリコン・シングルチャートでも1位を取り、
最終的に90万枚を売り上げる大ヒットとなり、彼の代表曲となる。

シンシアとはの当時の人気アイドル南沙織のこと。
ただその事情を知らなくても、シンシアという一人の女性の唄として
心に伝わる。
このアルバムの中ではもっともフォーク色がある曲であるけれど、
それでも歌謡曲の要素がある。

6.三軒目の店ごと
酒のみの唄。
朗らかな唄とみるか、
酔っ払いを推奨する嫌な歌詞と見るか、
酒に対する見方で大きく変わる曲だ。
僕は残念ながら後者だ。
ただ悪い意味でもこの世代の若者の常識となったなら
僕は残念に思ってしまう。

7.襟裳岬
「世捨人唄」との両A面として森進一に提供した曲。
この曲でレコード大賞で大賞を受賞する。
なお、吉田拓郎は授賞式にジーパン姿で出席し、
その姿とステージでの
両手をポケットに入れたまま受賞の言葉を聞くといった態度に対して物議を醸した。

中身は
森進一のバージョンが王道の演歌調であるのに対して
サウンドはロックンロールのようだ。
森進一のバージョンにあった情感を出来る限り
出さないようにしているように見える。
歌詞も情感たっぷりで、
この曲はやはりこのバージョンよりも
森進一が歌うバージョンの方がいい。

8.知識
訳知り顔で理屈ばかりいう、自称知識人ついての皮肉が内容。
個人的には『COMPLETE TAKURO TOUR 1979』に
収録されていたエンターテインメント全開を感じるサウンドが印象にあって、
そのバージョンを聴き親しんだ後だと、より楽しめる。
アウトロのオーケストラがバックに
アコースティックギターのオブリガードが心地よい。

9.暮らし
歌詞はうまくいかないことについてが内容。
淡々としかし、力強くがなり気味の太く低い声で歌うことで
情感をあまり感じさずに聴かせている。

10.戻ってきた恋人
安井かずみが作詞した曲。
安井かずみは去年シングル『金曜日の朝』でも起用されている。
ある意味、アルバムに浮いているとも見える曲だけれど、
多彩さを出すため、ピンポイントで登場したのだろうか。

11.僕の唄はサヨナラだけ
ファンクナンバー。
しかし、この曲の良さは
僕はつま恋のリハーサル時のパフォーマンスで気づいた。
アレンジだけでなく、
録音やミックスによって歌謡曲の要素は強くなるという分かりやすい例。

12.贈り物
「贈り物」をテーマにして恋人に対しての別れの唄。
曲調は明るい。

前曲「僕の唄はサヨナラだけ」と別れの唄が続く、
この別れの唄は『伽草子』には収録されていない。
このことはこのアルバムの特徴であると見ている。
吉田拓郎自身が書いた歌詞はある意味ドキュメンタリーの要素がある。
実際に吉田拓郎は翌年、最初の離婚をする。
『伽草子』が恋愛最中、『今はまだ人生を語らず』は恋が終わるとなっている。
そう見るとアルバムの冒頭の「ペニーレインでバーボン」の
「恋人の顔なんて思い出したくない事があるよね」という一節は
この曲の世界観とまったくつながりがないといえないと思えてくる。

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