1994年9月1日発売。
Mr.Childrenは『Versus』後、
シングル『CROSS ROAD』(1993年11月10日発売)でオリコン初のベストテン、
そこからロングセラーとなり、結果的このシングルはミリオンを記録。
人気バンドの仲間入りとなる。
このアルバム制作の流れを記録した、
『【es】 Mr.Children in 370 DAYS』がある。
この著作の中で制作過程が分かる。
レコーディングの際に
録音環境も大きく良くなったそうだ。
“ところで、この渋谷のスタジオでの作業中、中川はあることを噛みしめていた。
初期の頃なら、到底使わせてもらえないリッパなスタジオの設備と環境が、
目の前に広がっていたのである。彼は山中湖での1人部屋に続き、
ここでも自分たちを取り巻く環境の変化を痛感するのである。
「俺たちも出世したなぁ~」”
『【es】 Mr.Children in 370 DAYS』ページ数不明(本に未表記)
Mr.Childrenのお勧めの1枚とするなら、どれかと言われたら
僕はこのアルバム(か『BOLERO』(1997年3月5日))を挙げる。
よく「ミスチルはただのポップバンド」といった趣旨の批判があるけれど、
ここまでポップなアルバムの前ではそれは素晴らしいことなのだろう。
作詞:桜井和寿(インストを除く全曲)
作曲:桜井和寿(1・4・5・6・9・11・12)、鈴木英哉(8)、桜井和寿 & 小林武史(2・3・7・10)
全楽曲編曲:小林武史 & Mr.Children
1.Printing ★
カメラのシャッター音と機械音が中心の
それまでのミスチルにはなかった、SEの導入。
これだけ水準の高い曲が並ぶ中で、
ストレートに勝負しないような趣は
プロデューサー小林武史の意向なのだろうか。
このアルバムの冒頭に素直に歌モノが出ない姿勢は
この後のアルバム『深海』(1996年6月24日)、『BOLERO』(1997年3月5日)、と続く。
さらに僕の考えとして、
『DISCOVERY』(1999年2月3日)、『Q』(2000年9月27日)
やや実験的な曲を置いており、
ある種SE代わりとして機能させているのではないかと思う。
その後また『IT’S A WONDERFUL WORLD』(2002年5月10日)
でまたインストルメンタルが導入される。
こうしたミスチルのアルバム構成の冒頭の定番の流れが
このアルバムから始まっていると考えられる。
2.Dance Dance Dance ★★★★☆
ローファイなギターリフが印象的なAメロ、
ポップな歌詞がいい。
「満ち足りた マニュアルにそった恋の中
もがいている 将来有望な僕らがいるよ」
という一節に前向きさを感じる。
3.ラヴ コネクション★★★★
ローリングストーンズを意識した音作りらしい。
ただサウンド自体は加工感があり、
ニューウェーブの匂いもする、プライマルスクリームに近いか。
4.innocent world ★★★★☆
代表曲。
1994年6月1日にシングルとして発売。
ミスチルが大ヒット曲した
ここからMr.Childrenはシティポップからロックバンドにシフトし、
「等身大」の表現を全面に出してくる。
実際、プロデューサーの小林武史もこの曲を制作する際、
意識的にミスチルの音楽の方向性の変更を考えていたようだ。
結果的そのことが吉となって、
ミリオンヒットとなったシングル『CROSS ROAD』以上に売れ、
193.6万枚の売り上げを記録する。
この曲に対する反響は大きく
吉田拓郎はラジオでこの曲に
「フォークロックの時代を匂わせるサウンド」
「新しさもあり懐かしさも感じる」と言及している。
またこの楽曲はこの年(1994年)のレコード大賞に大賞に選ばれている。
その授賞式にミスチルのメンバー達は不参加。
大賞を受賞した楽曲のグループやミュージシャンが
授賞式に参加しないということは
前代未聞であって、今現在唯一の出来事となっている。
ただ大賞に選ばれた理由が、
レコード大賞の審査内の政治的な理由が大きかったようで、
授賞式不参加でも選ばれたという理由が
楽曲に対する評価ではないところが
楽曲に対して、またレコード大賞の姿勢として残念だと思う。
ただこの曲がこの年に大きくインパクトを残していたのは確か。
実は僕は高校時代、本体のメロディーがそれ程好きでなく
曲としてはイントロのフレーズの方が好きだった記憶がある。
あらゆる人に好まれるというのは、
どこか一つでも気に入られる個所を作るという意味でも
興味深い曲だと思っている。
5.クラスメイト★★★★★
「innocent world」と「CROSS ROAD」の間、
大ヒット曲で代表曲に挟まっているあまり知られていない名曲。
ベストアルバム 『Mr.Children 1992-1995』にも収録されていない。
オリジナルアルバムを聴かないとこの曲の存在に気づきにくい。
内容は「多忙な暮らし合ってこそ優雅な暮らし」をしているサラリーマンが
かつてのクラスメイトと出会い浮気をしている話である。
物語性が強い。
この後、ひとつひとつスケールが
大きくなりがちなミスチルの楽曲において
貴重なポップの水準の高い小品である。
6.CROSS ROAD★★★★☆
1993年11月10日にシングルとして発売。
最高6位ながら、売れ続け最終的にはミリオンを記録する。
サウンドは前作『Versus』に収録されていても違和感はない。
ただ歌詞はそれまでにない変化がある。
「誰もが胸の奥に」で始まる
サビのフレーズがあり、
といった一般論が登場する。
君と僕だけでなく、
Mr.Childrenの歌詞で
ここまでストレートに一般論が出てくるのは初めて。
その後、「人は~」といった一般論と個人的なごくある感情を
織り交ぜながら書くことを基本姿勢となる。
Mr.Childrenの歌詞がつまらないという人がいる。
その程度はこのミスチルの曲にどのくらい一般論が入っているかによるのかもしれない。
7.ジェラシー★★
ポップさがなくなり、
アルバムの多彩さを出すための曲であり、
しかし6分41秒とアルバムの中で最も長く、
実験的に挑戦し新しいMr.Children を表現しようとしたことは
分かるけれど、冗長である。
8.Asia (エイジア)★★☆
「ジェラシー」程ではないが、
これといった突起のあるメロディーでなく、
5分以上あり、「ジェラシー」とこの曲の計12分が
僕には長いと感じる。
水準の高いポップソング並ぶこのアルバムであって
この2曲は弱点である。
9.Rain★
雨のSEが「雨のち晴れ」につながる。
しかしこのSEの録音状態が意外といい。
80年代のSEはもう少しローファイだった。
そこに90年代のJpopだと感じられる。
10.雨のち晴れ★★★★
サラリーマンの日常を唄う。
当初は鈴木英哉が歌う予定だったが、桜井和寿が自分で歌いたくなり、
急遽予定が変わる。
結果的に桜井和寿のボーカルが良く、
鈴木英哉が歌ったイメージがあまりできないぐらいのハマり具合である。
仮に鈴木英哉がボーカルをしたとして収録曲の並びがそのままだとすると、
7.「ジェラシー」からこの10.「雨のち晴れ」まで非常にダレた後半の流れになってしまう。
このアルバムの出来に大きく影響した桜井和寿の判断である。
歌詞の世界観で
最終的にはなんとかなるという考えを持った内容は
まだかろうじて残っていたバブルの景気感か、
それとも元々持っている桜井和寿の資質によるものなのだろうか。
ここではその根本にある陽気さが歌詞として魅力となっている。
11.Round About 孤独の肖像★★★★
”「Round About」の詞で煮詰まっていた桜井は、ある気分転換を思いつく。
黒縁メガネで変装し、渋谷の街を徘徊しようというわけだ。
(中略)そして桜井が渋谷センター街で見た光景は……。(中略)
そこには、欲望と肉体と刺激が集まっていた。彼は考える。
「確かにみんな、ここに集まる人たちは飢えている。何かを欲しがっている。
でも、何が欲しいのか自分ではわからない。」”
『【es】 Mr.Children in 370 DAYS』 ページ数不明(本に未表記)
渋谷の街の光景から歌詞のヒントをもらい書き上げられたこの曲は
シティポップの残り火を感じ、
『Versus』で表現しきれなかったことができたと実感させられる。
聴いているときの躍動感が心地よい。
12.Over★★★★★
イントロのピアノと
一オクターブ上のフレーズを重ねた華やかなフレーズと
憂いのあるコーラスが印象的な曲。
前曲「Round About 孤独の肖像」もギターに高音のシンセを入れることで
音を華やかにしているという手法をとっていて、
基本的であるけれど、とても効果的である、
まさにお手本のようなアレンジを行っている。
実は桜井和寿が書く歌詞で具体的な性愛の描写は少ない。
しかもその少ない性愛の描写を書くとき、基本的にそれは曲の主題となっている。
(例「マーマレード・キス」「渇いたKiss」)
この曲の歌詞に
「 “風邪が伝染るといけないからキスはしないでおこう”って言ってた」とある。
この唄の主人公は実際はキスをしていないのだけれど、
珍しく歌詞の中に記述されていること自体に
生々しさが出ている。
ポップスなメロディー、描写を上手く入れた説得力のある歌詞、
憂いを感じるが華やかなサウンド、
が一体となった曲を最後に置かれ、
また最後に別れを感じる曲を入れることで
でこのアルバムを上手く閉じさせている。
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