1972年7月21日発売。
今でいう実質インディーズのレコード会社エレックから
大手レコード会社のソニーへと移籍して初めて出したアルバム。
その前作からシングルカットされた『結婚しようよ』(1972年1月21日)が
ロングセラーになり、最終的にオリコンチャート最高3位を記録、
40万枚を売り上げる大ヒット曲となる。
そこから大手レコードに移籍したことも含めて
商業主義、売れる事が悪だとして攻撃したフォークファンがいたようだ。
そのことに対して、
アルバムに付属している吉田拓郎自身が書いたライナーノーツで反論している。
”
考えてもみればたかが一枚のレコードがヒットした位で目の色を変える事もないのです。
<中略>
フォークほど「こうでなければ」とか
「こんな事はしちゃいけない」とか云う規制が多いのもはないのです。
より自由であった筈のものなのに。
<中略>
フォークだから何でも出来る、言えるなんてとんでもない事です。
自分の歌だから出来るのです。自分で自分の言葉を持つのです。
その時、もうフォークなんて関係ないのです。何でもいいのです。
”
よくよく考えてみれば今でもネット内に嫌儲という言葉があるように、
いつの時代にもそういった感情があるんだなと感じた。
このアルバムも発売されると売れに売れ、
オリコン・アルバムチャートで14週連続1位を記録、
通算で15週1位46.9万枚を記録している。
余談だけれど、このアルバムが発売され、落ち着いた頃に
井上陽水が『氷の世界』(1973年12月1日)が発売され、
通算35週で1位を記録し、
日本で初めてアルバムで100万枚以上を売り上げていることを見ると、
この時期の音楽はフォークロックが流行っていたことが分かる。
サウンドとしては王道のフォークロックで
アコースティックギター主体に
マンドリンとバンジョーが曲に
多く使われていることがサウンドに華やかさと多彩さを感じさせる。
作詞面も多くの人を起用していて、言葉に幅があり
そのことも単調になりがちなフォークに多彩さを与えている。
悪い意味で貧弱さを感じさせる「4畳半フォーク」から一線を画している。
吉田拓郎の代表作でもあり、入門の1枚としても、
ベストアルバムを手に入れるよりも
個人的にはこちらの1枚を手に入れた方がお勧めである。
1.春だったね
よくサウンド面で
ボブ・ディランの「メンフィス・ブルース・アゲイン 」
(『ブロンド・オン・ブロンド』1966年に収録)に酷似していると比較されるけれど、
僕はこちらを先に聴いていて、後でボブ・ディランの方を聴いて、驚いた記憶がある。
それでも林達夫によるアコースティック感が出ている乾いたドラム、
左におそらく松任谷正隆によるオルガン、右にスライドギター、ピアノの音が出てくる心地よさは、
この曲ならでは。
よく曲を作る際、歌詞とメロディーがありどちらか先に作るのだけれど、
この曲は歌詞が先にあったことが伺える。
この曲の歌詞、1番と2番の言葉の数が全体的にあまりにバラつきがあって、
特にサビの後半の箇所、比較すると
1番「かぜにふきあげられたほこりのなか ふたりのこえもきえてしまった」に当たる部分
2番「ひろいかわらのどてのうえを ふりかえりながらはしった」となって
通常だとこれでメロディーを合わせるのは困難。
これだけ文字数にバラつきがあるのは、
正直歌詞が先で楽曲を作るとしても、作詞家として駄目だと思う。
逆にこれだけ文字数にバラつきがあっても
字余りになって味にする、違和感のなく聴かせる
吉田拓郎のメロディーのセンスが十二分に出ている。
2.せんこう花火
日本の叙情のある歌詞と童謡のようなメロデイのなかで
ブリブリしたベースの音色がロックぽさを出している。
3.加川良の手紙
字余りの中で、違和感ない歌。
この曲の背景は様々なことが言われている。
70年代初頭の生活感が出ている歌詞が
僕としては楽しい。
4.親切
代表曲の「イメージの詩」(1970年)と似た曲調である。
ただ仮にこの曲の代わり「イメージの詩」が収録されていれば、
アルバムのクオリティーが上がるかと言えば、
そうならないところが、アルバムという面白さなのだと思う。
4曲目にして吉田拓郎自身の作詞曲。
吉田拓郎らしい、思ったことをそのまま書くといった内容。
ただテーマは一応恩着せがましい人に対して苦言をする
5.夏休み
代表曲。
昔、夏休みで行っていたことを羅列していた
日本の叙情をそのまま唄った曲。
童謡みたいだ。
1年前のライブ・アルバム『よしだたくろう オン・ステージ ともだち』(1971年6月7日)で
既に発表されていて、アレンジは特に変えずにこのアルバムに収録されている。
アルバムの構成上、必要だったのだろうか。
それとも自信作だったからスタジオでしっかり録音したかったのだろうか。
6.馬
こどもの歌のような内容で
コメディソングのようで
文字通りの馬について、
ほのぼのとストレートに書かれている。
声は大きく加工して、実験的な匂いをつけることで
アルバムに収録することに様になるような形になっている。
7.たどり着いたらいつも雨降り
同時期にザ・モップスにシングル曲として提供された(1972年7月5日)
左にバンジョー、右にマンドリンを使っている。
高音で華やかさを感じさせる楽器がこの曲では同時に使われている。
8.高円寺
16ビートのギターカッティングのリフがカッコ良く印象的な曲。
吉田拓郎の声も切り貼りされているようで、現代的な処理をして
曲に魅力を与えている。
70年代初頭だとそれだけで衝撃だったのでは、ないだろうか。
9.こっちを向いてくれ
前曲のマッチョな曲調から一変して
繊細さの目立つという曲。
歌詞は繊細さを出そうとして、あまり出ていない歌詞の内容が
男らしさを出している。
10.まにあうかもしれない
後年のシンガーソングライターのような歌詞の内容。
ストレートな言葉での自分の物言い。
歌詞の内容が心に入ってくる。
オルガンの使い方、音色にボブ・ディランの『ブロンド・オン・ブロンド』を感じる。
11.リンゴ
超絶的なギターのリフ。
大学時代、
ギターが上手くて評判だった人がいて
この曲を弾き語りで歌いたいけれど、
ギターが難しくてできないと言っていたことを思い出す。
今の僕も弾けない。
小説の一説のような描写の歌詞もいい。
12.また会おう
フォークロックでなく、王道のロック
サウンドエフェクトのようながなり声の吉田拓郎の声、
ギター以上にひずんでいるところがこの曲の味になっている。
13.旅の宿
吉田拓郎の代表曲であり、
1972年7月1日にシングルとして発売され、
オリコンシングルチャート1位を記録、自身最大のヒット曲となる。
シングルとこのアルバムに収録されているアレンジは大きく違っている。
シングルバージョンがスライドギターが印象的であるのに対して、
アルバムバージョンはアコースティックギター一本とハーモニカのみ。
同時期にシングルとアルバムバージョンが発表されていることから、
アレンジの段階で、甲乙つけがたく同時に収録されたと思われる。
14.祭りのあと
YouTubeでイントロに赤とんぼをハーモニカで
歌う1972年の弾き語りのライブバージョンに感動して、
このアルバムを手に入れた思い出がある。
(正確には『TAKURO PREMIUM 1971-1975』を買った。)
歌詞も含めて空しさを感じさせ、いよいよアルバムも終わりに近いと思わせる意味で
ここに置かれたのだろう。
15.ガラスの言葉
フォークグループ六文銭のメンバーであった及川恒平による幻想的な歌詞。
この曲の吉田拓郎の抑揚をおさえた弾き語りと合わさって、
どことなく現実感のなさが寂しさを感じさせてこのアルバムは終わる。
そのことがこの曲が終わり、また同時にアルバムが終わる時に
余韻を大きく残しているのだと思う。
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