佐野元春 『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』


ナポレオンフィッシュと泳ぐ日

1989年6月1日発売。
アルバムを制作するにあたって、
アルバムの大部分をロンドンで行われ、海外のスタジオミュージシャンを起用している。
また今作はコリン・フェアリーと共同でプロデュースしている。
コリン・フェアリーは
エルビス・コステロやニック・ロウを手掛けたプロデューサー。
佐野元春自身もセルフ・プロデュース力があるが、
(前作『Cafe Bohemia』(1986年)は佐野元春による単独プロデュース作品。)
今作はあえて外部のプロデューサーを起用し、アルバム制作に臨んでいる。
おそらく、決して経験豊富でない海外のレコーディングでの制作を
潤滑に進めるために、外部のプロデューサーが必要だったのではないかと思われる。
レコーディングの一部は前作と引き続いてハートビートと東京で行われている。
曲ごとにミュージシャンとレコーディング場所が違う、
そのことがアルバムのクオリティーに効果的にうまくいっている。

曲の水準が恐ろしく高い。
海外録音、海外ミュージシャンがこんなにも上手くいくのか、
それとももともとの曲のポテンシャルが高いからかなのか判別が難しいのだが
前後作より一歩抜けている印象がある。
次回は東京でコリン・フェアリーと共同でプロデュースで
ハートビートがレコーディングするという方法を選んでいる。
あくまで海外録音は一過性、
あるいはスタイルは毎回同じにしないと信条を持っているのだろう、
けれど個人的にはこの海外のレコーディングを拠点にする路線を
さらに進めていってもらいたかったと感じている。
それぐらい海外のミュージシャンによる演奏が素晴らしい。

歌詞の内容は全体的にニヒルさを漂っており
諦観と達観が入り混じったポジティブな言葉が並んでいる。

作詞・作曲・編曲:佐野元春

1.ナポレオンフィッシュと泳ぐ日★★★★☆
イントロから海外録音の成果がさっそく感じられる。
奥行きのある響き。
このアルバムしかない太く力強く伸ばした歌い方に
男らしいカッコよさを感じられる。

タイトルの「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」とは果たしてどう意味なのだろうか、
歌詞には1度も出てこない。
アルバムの表題曲であるため、
もしかしたらこのアルバムのテーマを示しているのかもしれないけれど、
僕にはどうしても分からなかった。
アルバム発売後、シングルとしてリカットされている(1989年8月21日発売)

2.陽気に行こうぜ★★★★
「陽気に行こうぜ」という言葉という裏腹にどちらかと
達観と諦観の半々が入り混じったある種の開き直りを感じる。
「テロリストもこわくはない」「命は短い恋をしよう」
というフレーズが印象に残る。

3.雨の日のバタフライ★★★★
アップテンポ2曲進んだ後、ミディアムなテンポのAOR。
暗闇の中をさまよいながらも、新しい日が来るとメッセージ。
曲調も含めて、
ギリギリのポジティブさを抱えたメッセージだと僕は感じ取っている。

4.ボリビア-野性的で冴えてる連中★★★★☆
歌詞そのものにはポジティブもネガティブもなく冷めている。
サウンドは大変刺激的で演奏、録音の素晴らしさを味わえる。

5.おれは最低★★★☆
歌詞もタイトルどおりの内容で、湿度の高さを伺える内容。
それでも、どこか清潔感を感じさせることが佐野元春らしい表現。
4曲続いた海外録音のあとの東京での録音。
それまでの海外録音に比べて垢ぬけない演奏、録音が
ある種のローファイ感を曲調とアルバムの構成的に効果的に演出している。
サウンドのローファイ感を狙う理由もあったけれど、
歌詞の内容から気心知れたハートビートによる
レコーディングを選んだのではないのかもしれないと僕は考えている。

6.ブルーの見解★★★★
歌詞の内容はとても辛辣で
ファンをも含む気安く声をかけたり、心を土足で入る人間について歌っており、
このあとのジュジュと続くような形の流れを取っている。

7.ジュジュ★★★★☆
前曲のアウトロでSEの扉を閉じた音がなった後、始まる。
「おれは最低」「ブルーの見解」で自己嫌悪、他社への攻撃と
あらゆるものを信じられなくなった後の胸の内を語っているように聞こえる。

シングル『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』のカップリング曲。
であるけれども強度のある曲。
サビのフレーズ「君がいない」「会いたい」の合いの手として出てくる。
ピアノのフレーズが心地よい。

8.約束の橋★★★★★
ドラムの奥行きが解放感を感じさせ
サビのホーンによるオブリガードがファンファーレを演出する。
ニヒリストのような歌詞が多いこのアルバムのなかで、
いやこの歌の歌詞ももこのアルバムの中にあると達観を表していると考えてしまうが
ポジティブな歌詞がこのアルバムにバランスを与えている。

9.愛のシステム★★★☆
洗練された世界の中での少数や異端への排除に対するアンチテーゼ。
この歌は1988年当時に制作された曲だけれど、
残念ながら、現在の方が説得力を持って響く。

10.雪-あぁ 世界は美しい★★★★☆
サウンド、メロディー、「雪は雪」と始まる歌詞の世界観は大きく5つ★を超えているが
「みんなよく聴いてほしい 今夜は俺は王になる ただ一日だけの 今夜は俺は王になる」
という一節が何度聴いても、どうしても僕には傲慢さを拭いきれない。

11.新しい航海★★★★
サウンドと歌詞の華やかさが聴いていて心地よい。
この次の「シティチャイルド」と続いて
このアルバムを聴いて少し忘れかけていたポップソングとしての
楽しさがある。

12.シティチャイルド★★★★
ご機嫌なロック。
前曲と連続してアップテンポの曲を並べることで、
幸福感を演出しているのだと思う。

13.ふたりの理由★★★★
美しいバックトラックで語り・サビの歌ととっている曲。
歌詞はある一組の男女の出会いと暮らしについて描かれており、日常を肯定した歌詞は
実は一番このアルバムでポジティブなのではないかと思ってしまう。
だからこそ、アルバムの最後に置かれたと読むのは、深読みすぎているのか。
いずれにしても、このアルバムを読後感を感じさせる曲であることは変わりなく、
僕はこの曲を聴き終えた後、日常について少し振り返りながら、考えてしまう。

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